16話 学園長
それから、校舎へと辿り着いたジーク達は、職員塔へと繋がるエレベーターを待っていた。
その最中も、アリシアはジークへと肩を貸し続けてくる。
すると、アイシャが急に口を開いてきた。
「あんた達、なんだかんだあっても、仲が良さそうやね?」
それに対し、ジークとアリシアは同時に突っ込みを入れる。
「どこがだ?」
「どこがよ!?」と。
「そう言う、息がぴったりなところやね」
それを聞くと、ジークとアリシアは共にため息を漏らした。アイシャの言った通り息ぴったりに。
しかしそこで、アリシアは彼女へと問いかけた。
「あなただって、わざわざ彼を助けるために私達の間に割り込んでくるなんて、相当仲がいいんじゃないの?」
すると、アイシャは少し頬を赤らませ取り乱した様な態度をとる。
「うちとこいつが!? そんな訳ないやん! ただ、こいつには借りがあるから助けただけやよ! それ以上でも、以下でもない関係!!」
しかし、その様子にアリシアは意地悪な笑みを見せた。
「ふーん、本当に? ホテルまで行っちゃう様な仲なんでしょ? 実はジーク殿の事が好きなんじゃないの?」
そこでアイシャは、さらに頬を赤らめ反論しだす。
「なに馬鹿な事言ってんの! あれは無理やり連れ込まれただけやし! それに大体ミーシャも一緒だったんよ!」
ただその反論に対し、アリシアは
「無理やり連れ込まれたってどういう事? やっぱり、あなたは犯罪を犯したという事?」という疑問を漏らす。
それと共に、ジークへと複数の白い眼が向けられた。
そこでジークは、アイシャへと突っ込みを入れる。
「おい、アイシャ。語弊があるだろ」
すると彼女は謝りはしたが、
「ご、ごめん。でも、あれは……確かに無理やりやったような……?」と訂正を入れはしなかった。
そして、アリシアからはさらに厳しい目つきで睨みつけられる。
「やっぱり、そうなのね?」
正直、彼女の傍から今すぐにでも離れたかったが、それは叶わない。
「はぁ、違う。エレクの追手から逃れるために仕方なく利用しただけだ」
ジークがそう弁明したところで、エレベーターがちょうど到着する。
そこで、アリシアは訝しんだ目を向けながら「ふーん」と呟いただけで、これ以上の言及をしてこなかった。
そして彼女はジークを引っ張りながら、エレベーターへと乗り込んでいく。
ジークはエレベーターにより言及を逃れられたらしい。ただ、エレベーター内の空気は非常に重苦しかったが。
そこで、ジークは空気を入れ替えるべく話題を変える。
「それより、危ないから大人しくしていろと伝えてあっただろ。なぜお前がここにいる?」
と今更ながらアイシャを咎める様にして。
すると、アイシャからの反論が返って来る。
「それはこっちのセリフやよ! うちらに何の相談もせず勝手に突っ走って!」
彼女のはもっともな言い分であった。しかし、ジークは少しムキになってしまう。
「そうか、勝手にミレイへと送ったメールを見たのか……。だが、俺なら問題はなかった」
それを聞くと、彼女から厳しい突っ込みを入れられる。
「何が問題ないんよ!? 現に、うちが来なければ危ない所だったやん!」
そこで、ジークは我へと返り自身の行いを省みることが出来た。
そして、柄にもなく素直に彼女へと礼を述べる。
「……そうだな。まぁその、助かった。礼を言う」
ただ、アイシャはそれを聞くと深いため息を漏らし、どこか呆れていた。
「はぁ……、もっと、こっぴどく叱ってやろうかと思ったんやけど……。そんな素直に礼を言われると調子が狂うやん」と漏らしながら。
その後、すぐにエレベーターは学園長室のある20階へと辿り着いた。
子気味いい音と共に扉が開き、目の前には豪華な装飾が施された廊下が現れる。さらにその先には、これまた豪華な装飾が成された大きな扉があった。
ただ、なぜか扉の前には、担任のイアン・ラグエルの姿もある。
そして彼女はジーク達一行を目にすると、深々とお辞儀してきた。どうやら、ジークを待ちわびていた様子。
そこへ、一行は真っすぐ向かって行く。
すると、イアンは
「おはようございます。お話は学園長から窺っておりますので、どうぞ中へ」と告げて扉を開け放ってきた。
そして次の瞬間、ジーク達は教室二つ分程もある随分とだだっ広い空間に出迎えられる。それも、床は大理石が敷かれ、壁紙も所どこに金の刺繍が施された華美な空間。また、窓ガラスは全てステンドグラスとなっており、入り込む光は幻想的であり美しいものであった。
ここはどこか、教会や神殿を思わせる様な造りとなっている。さらに、その際たるものとして、部屋の奥にはステンドグラスから入り込む光に照らされた巨大な女神像が置かれていたのだ。
また、そのすぐ傍には女神像に跪き、祈りを捧げる麗しい女性の姿。彼女は祭服に身を包み、長く切りそろえられた銀の髪の上にもベールを纏っていた。
その光景を目にすれば、彼女が天使である様に錯覚するだろう。
しかし、彼女の背から生える両翼は、右翼が白い天使の翼であるのにも関わらず、左翼には黒い悪魔の翼が生えていたのだ。
その姿は異様でもあり、どこか神々しくも見える。そんな彼女こそが、このフロンティア学園の学園長であり、天使と悪魔のハーフでもあった。
ジークはドアの前で、しばらく彼女の姿に見惚れていたが、不意にアリシアに声を掛けられる。
「急ぎの用なんでしょ? なに、ぼさっとしてるのよ」
すでにアイシャとアリシアとその取り巻き達は、部屋の中央に置かれていた10人掛けの豪華な円卓へと腰かけていたのだ。また、イアンは全員分の紅茶を運んできている。
そこで、ジークは我に返り
「ッ……申し訳ない。失礼する」と告げながら部屋の中に足を踏み入れた。
そして、ジークも椅子へと腰かける。
すると、学園長は急に祈りを止め、こちらへと向かい合ってきた。
「いえ。ちょうど、私も『
そして、彼女は優雅な振る舞いで上座に腰かけると、ベールを取り払ってきた。
そこには、彼女のとても穏やかな表情があったが、瞳の奥は見えない。彼女は両目を瞑ったままジーク達と向き合ってきたのだ。
しかし、彼女の目は見えていないわけではない様子。
彼女はこの場の全員を見回す様な素振りを見せ、
「というよりも、ジークさんだけがお越しになると聞いていたのだけど、随分と大所帯ですね」と呟いてきた。
それに対し、アリシアは軽く会釈をしながら、謝罪を述べる。
「申し訳ありません。私達は一連の騒動の真相を知るために、同席させて頂いております」
そして、アイシャも
「その、うちも成り行きで同席させてもらってます」と告げていた。
そこで、学園長は首を横に振り、
「いえ、そういう意味ではないわ。こんなにも大勢の方が来られるなら、お茶菓子でも用意しておくべきだったと思ってね。それに、これはジークさんの意向なのでしょうから、構いませんよ」と答えてきた。
そして、学園長はジークとアイシャとを交互に見回す素振りを見せてくる。それが何を意味するのか彼女の表情からでは読み取れないが、とりあえずジークは謝罪を述べた。
「昨日の非常識な時間の電話と言い、アリシア達を同席させる事について伝えておくべきでありましたな。申し訳ない」
すると彼女は朗らかな笑みを見せ、再び首を横に振ってくる。
「本当に気にしなくていいわよ。賑やかなのも悪くないし。電話に関しても、ちょうど話し相手が欲しい時間帯だったから、助かっちゃったわ。……というよりも、こちらこそお呼び立てしてごめんなさいね」
その発言に対し、ジークも首を横に振り
「いえ。それこそ、お気になさらず。こちらは、お願いをする立場なのだから」と答える。
しかし、ジークは正直、彼女の掴みどころのない表情と仕草。それと言動に、エコーよりも苦手意識を持たされていた。
学園長の事は全くと言っていい程、詳細を知らない。というよりも、厳密にいえば、彼女の本名や出自などの個人情報は機密事項扱いになっている。文字通り、彼女はベールに隠されていた。また、彼女とは入学説明会で少し話した程度で、今までほとんど会話を交わした事などなかったのだ。彼女の携帯番号は、イアン経由で知りえた物である。
そんな中でも、ジークは彼女くらいしか頼れる者を知らなかった。学園長という彼女の立場なら、アイシャやミーシャを奴らから守れる筈であったから。
学園長に熱い視線を送りながら、そんな事を考えていたジークだったが、彼女は不意に笑みを見せつつ首を傾げてくる。
「私の顔に何か付いている?」
そう問われたジークは思わず視線を逸らし、
「いえ、なにも。それより、そろそろ本題に入らせて頂きたい」と話を切り出した。
彼女はそれに同意し、
「ええ、そうね。で、その電話の件だけど……。せっかくだから、アイシャさんの口からも詳しく聞かせてもらえない?」とアイシャに説明を求めてくる。
そして、急に話を振られたアイシャは
「え! うちがですか?」と少し驚いた様子。
「ええ。私はあなたとも、お話がしたいのよ」
学園長が笑顔を絶やさずに、そう要求してくるのをアイシャは断れなかった。
「わ、わかりました」
アイシャはそう答えると、昨日から続く一連の騒動を語り出す。
「えっと……あれは――
~~~~~~~
――という事です」
アイシャは、ラジエルがミーシャに言い寄ってきた事、倉庫街で彼の部下に襲われた事、ホテルでの襲撃、ジークのマンションまでも奴らに追い立てられた事。その全てを語り終えると、皆の様子を窺いだす。
すると学園長は瞳を閉じたまま
「ジークさんが話してくれた事と概ね、同じね」と呟いてきた。
また、アリシアとその取り巻き達は眉間に皺を寄せながら考え込んでいる様子。
そして、ジーク達の間にはしばしの沈黙が流れた。
しかしそんな中、ジークはおもむろに携帯を取り出し
「こいつも合わせて聞いてもらいたい」と切り出す。
そこで、アリシアは怪訝な表情を見せながら問いかけてくる。
「何を?」
「俺のマンションが襲撃される前にエレクと交わした通話の記録だ」
ジークがそう言い放つと、学園長は
「そう言えば、電話口でエレクさんが関与している証拠が残っていると仰っていたけど、それの事?」と問いかけてくる。
それにジークは頷く。
「ええ、その通り」と。
そして、念のために残しておいたエレクとの通話記録を流し出した。
そこには、エレクのジークに対する挑発的な態度や、犯行を仄めかす様な会話が記録されている。
すると、それを聞きながら、一同はまた深く考え込んでしまう。
ただ、今回は沈黙となる時間はなかった。
アリシアは、通話記録が終わるとすぐに
「確かに、エレクの言っている事は怪しいわね。けど、それだけでは今回の件へ関与しているという決定的な証拠とは、なり得ないわ」と告げてくる。
彼女は治安局としての立場だろうか、エレクへ疑いの目を向けつつも、慎重に情報を精査していた。
そこで、ジークは
「そうだろうな。これだけで、俺への疑いが完全に消えるとは思っていない」と納得を示す。
だが、それに対しアリシアは首を横に振ってきた。
「そうね、これだけでは無理ね。……けど、そこまで私も頭が固い訳ではないわ」
そう言い放つ彼女へジークは思わず
「自覚があったのか?」と突っ込みを入れてしまう。
すると彼女は顔を真っ赤にして怒ってきた。
「まったく……。真面目に話しているんだから、茶々を入れないでよね」
そして、出鼻を挫かれた彼女は咳ばらいをした後、話を続けてくる。
「ゴホン……実は、気になる点があるのよ。ラビリンス天魔の監視カメラ映像。その映像ではアイシャさんの言っていた襲撃者と思われる者達を確認できなかった。だけど、あなた達が部屋に入った数十分後には、不自然に映像が飛ばし飛ばしになっている箇所がいくつもあったわ。まるで、誰かが映像を修正した様にね。それは、ジーク殿の住居でも同じように手を加えられた形跡が残されていた」
彼女がそう告げてくるのに対し、ジークは
「奴らの仕業だ。奴らが証拠隠滅を図ったんだ」と答える。
すると彼女は、神妙な面持ちで
「まだそうとは言い切れない。だけど、エレクが疑わしいのも事実ね。だから、現時点ではあなたを拘束する事はしないわ。ただ、それはエレク=ラジエルの捜査を進め、決定的な証拠が見つかるまでよ。任意の取調べには応じてもらうわ」と言い放ってきた。
それを聞き、ジークは自身への疑いが少し晴れた事に安堵を漏らす。
「ああ、わかった。奴から、ぼろが出る事を祈ってる」
しかし、ジークは治安局を完全に信用し切ったわけではない。こいつらが、エレクの尻尾を掴めななければ、依然としてジークは窮地に立たされるわけであるのだから。
ただアリシアとの話し合いは、学園長が割り込んできた事によって中断させられる。
「さて、お二人の話し合いにも決着が付いた様ですし……。そろそろ、私からもよろしい?」
それに対し、ジークは謝罪を述べた。
「ああ、申し訳ない。あなたへお願いに上がったにも関わらず、そっちのけで」
「いえ、お気になさらず。私としても、エレクさんがこの件へ関与しているかどうかは気になる所ですし。ただ、その判断よりも今は、窮地に立たされているあなた達の対応について話し合いたいと思うわ。あなたも、そのために来たのでしょ?」
学園長は先程の話を全く疑う素振りも見せず、そう問いかけてきた。
それにジークは少し疑問を抱く。
「ええ。だが、あなたは俺達の話を信じてくれるのですか?」
「ええ。あなた達の話に嘘偽りがない事は確認できたから」
彼女はそう言い放ってくるが、ジーク達は口頭で説明しただけで、特に証拠を示してはいない。強いて言えば、通話記録を聞かせただけ。それだけで嘘を吐いていないという証明にはならない筈であるが、彼女は自信を持ってそう言い放ってきたのだ。
それには好都合でもあったが、ジークは彼女を訝し気に見てしまう。
すると、学園長は再び笑みを見せ
「顔を突き合わせて話せば、嘘を吐いているのかそうでないのか、すぐにわかるのよ」と言い放ってくる。
そこでジークは、彼女を少し気味悪く思った。なんだか、彼女に心を覗かれている様な気がしてならない。
しかし、そんなジークの心情を知ってか知らずか、学園長は話を戻してきた。
「それで、あなたは私に何を要求するの?」
それに対し、ジークは余計な考えを振り払い
「フロンティア学園で、アイシャとミーシャの保護をしてもらいたい」と答える。
すると、それを聞いたアイシャは少し驚くと共に、
「あんた、そんな事を考えてくれていたの!? 確かに、この学園なら部外者は入り込めない。やけど、学園にはラジエルの奴も通っているんやよ? 安全とは言えないんじゃ……」と不安を漏らしてきた。
だがそれには、学園長が首を横に振りアイシャを宥めてくる。
「いえ、その点なら心配には及びません。なにせ、学園の警備は厳重ですし、学園の者の目もありますので。ここであれば、迂闊には手を出せない筈でしょう。それに、この学園の地下には限られた者しか知らないシェルターなんかもあるのよ」
彼女は自信満々にそう告げてきた。
それに対し、ジークは
「それはつまり、彼女達を保護してくれるという事でよろしいのですか?」と問いかける。
すると、学園長は笑顔で頷いてきた。
「ええ、勿論そのつもりだったわよ。もとより、困っている学生に手を差し伸べるのが学園長である私の務めなのだから」
ただ、そう告げてくると同時に彼女は続けて
「ただし、4つの条件があるわ」とも言ってきた。
それに対し、ジークは「それは?」と恐る恐る問い返す。
すると、彼女は
「一つ目はシェルターの事を公言しない事。二つ目は、授業にはちゃんと出てもらう事。それから、3つ目は授業が終わり次第、必ずシェルターへと戻る事。要は、学生の本分をまっとうした後、安全な所で安静にしていてもらうというだけの事よ」
と告げてジークとアイシャの反応を窺ってきた。
そんな彼女は3つの条件を告げただけで、最後の条件をもったいぶっている。
そこで、ジークは怪訝な表情を浮かべながら、問いかけた。
「で、最後の一つは?」
すると彼女は
「最後の一つは、ジークさん。あなたにもシェルターへ入って頂く事よ」と言い放ってきた。
そんな条件を突き付けられた事に少し驚かされたジークであったが、彼は毅然とした態度で断りを入れる。
「俺の心配はご無用。奴らの狙いは俺じゃない。それに、捕まるようなへまもしない」
しかし、彼女はジークの身を案じていたわけではなかった。
ジークの返答に対し、彼女は否定を入れつつ、問いを投げ掛けてくる。
「そうではないわ。あなたは、これから何をしようとしているの?」
「別に何も。これ以上、治安局の連中に変な容疑を掛けられたくはないので」
ジークはそう答えた。しかし、彼女は
「それは嘘ね。あなたはこれから、この問題の根本を一人で解決しようとしているわ。エレクさんを排除してでもね」と言い放ってくる。
そこで、またもやジークは彼女へと気味の悪さを抱く。
ジークの胸の内は彼女によって簡単に見破られてしまった。彼女のそれは、まるで本当に思考を読んでいるとしか思えない言動だったのだ。
それについて、ジークは言及する。
「それが、あなたの『天の加護』、もしくは『魔術』ですか?」と。
すると、彼女の眉は僅かに動いた。しかし、すぐに元の笑みへと戻っていき、
「あなたのお顔にそう書いてあっただけよ」とはぐらかされる。
それにジークは、納得がいくはずもなかったが、「そう……ですか」とだけ呟き押し黙ってしまう。
その様子を見て学園長は
「私は学園長と言う立場として、学生間同士で不毛な争いをさせる事はできないのよ。それに、問題を解決するのは、治安局の仕事。そうよね?」とアリシアに同意を求めていた。
そして、急に話を振られたアリシアは少し戸惑いながらも
「え、ええ。お任せください」と答える。
そこでジークは、この条件を断る事はできないと判断した。
だが、彼もただで引き下がるつもりなどない。
「……はぁ、わかりました。それでお願いしたい。しかし、治安局が役立たずであったなら、俺は好きにさせてもらう」と言い放つ。
それに対し、アリシアは
「私達に信用がないわね」と嘆いてきた。
それをジークは否定しつつも、
「いや、信用していないわけではない。俺はもしもの事を想定しているだけだ」と慎重な考えを打ち明けた。
だがそこで、学園長がジークを宥めてくる。
「まぁまぁ、そういじけないで。治安局は実績もあるし、すぐにエレクさんの尻尾を掴む事でしょう。それに、シェルターは堅苦しい所ですけど、安全は折り紙つきだから。きっと、お気に召す筈よ」
それに対し、ジークはため息を漏らすと共に、投げやりに答える。
「はぁ……いじけてもおりません。だが、我儘を言って申し訳なかった。期待している」
そこで、学園長は頷きながら
「ふふっ、ご納得いただけた様でよかったわ。さて、そろそろお時間ね。皆さんは本分に戻ってください」とこの場にいる全員に促してきた。
すると、アリシアは腕時計をチラリと見て、
「あ、もうこんな時間なのね!」と驚き出す。
そして学園長以外の者、全員が慌てて席を立つと、皆一様に部屋を後にしていく。
それにジークも続くが、その最中に学園長を入り口越しにチラリと見る。すると彼女は、ジーク達が立ち去る間、ずっとこちらに笑顔を振りまいて来ていた。
その麗しくも優し気な笑みは、ジーク達をただ見送っているだけの物であろう。しかし、彼女の能力を知った今、素直にそれだけとは考えられなかった。彼女にはこちらの考えを読み取れているが、ジークにはその内が全く読み取れてないのだから。
――学園長は、俺達を罠に掛ける為に保護を受け入れた可能性も考えられる
そう考えてしまうジークだったが、それを即座に自身で否定した。
――いや、考え過ぎか……
学園長に掛かれば、そんなまどろっこしい事をせずとも、ミーシャ一人を捉える事など難しくもない筈だろう。大体、学園長がエレクと繋がっていた場合、すでにミーシャはあいつの手中にある筈。
ジークは少し神経質になっていたのだ。
――今は信じるしかない。懸念されていた問題、アイシャとミーシャの安全を確保する事ができたと言う事を。そして、治安局がエレクの奴を追い詰める事も含めて
ジークはそう思い、余計な考えは振り払う。
そして、彼はアイシャとアリシア達の後に続いて、自身の教室へと向かって行く。
しかし、この考えは非常に楽観的であり、希望的観測に過ぎなかった。ジークはその事を直に気づかされる。すでに、奴らは次の手を講じていたのだから――
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