別の障害②
双方睨み合いの中、最初に動き出したのはアリシアであった。
「そのまま、動かない方が身のためよ」
彼女は告げると同時に、左腕の剣で再び”斬烈波“を振るってきた。
それに対し、ジークは避けることなく、今度は真っ向から突っ込んでいった。分裂する前に打ち砕くべく。
しかし、ジークの腕が触れる直前に斬烈波は3つに分裂し出す。それは、まるで彼女に動きが読まれていたかの様な、見事なタイミングで。
ジークは一瞬で、3本の衝撃波に取り囲まれ体を切りつけられてしまう。
それでもジークは
――バイタル・アクセラレーション・ハーフブースト
と身体を強化し、斬烈波の中を無理やり突っ切る。
全身は焼けるように痛む。まるで、かまいたちの様に体中のあちこちは切り刻まれている。
しかし、だからと言って、足が止まる程ではない。
現に彼女の下へは腕を伸ばせば届く距離まで迫っていた。
そして彼は、右腕を振るい彼女に掴みかかっていく。
ただ、それにアリシアはすぐさま反応し、左腕の剣で受け止めてきた。
すると、交わった腕と剣は、互いに激しく鍔迫り合う。双方共に一歩も譲る気はなく、これ以上は押し進められない状況となってしまっていた。
そこで、アリシアは挑発混じりに問いかけてくる。
「どうしたの? あなたの力はこの程度だったかしら? それとも、手加減している?」
それに対し、ジークは毅然とした態度で答えた。
「加減をしているつもりはない。だが、お前を無力化する程度なら、これでも十分だ」
そしてジークは、重ねて身体強化の魔術を掛ける。
――バイタル・アクセラレーション・ハーフブースト
すると次の瞬間、乾いた音を立てながら透明な刀身に亀裂が走りだした。
それを見た、ジークはさらに力を込めて亀裂を押し広げていく。刀は今にも砕け散りそうになっていた。
だがそれでも、彼女は全く焦る素振りを見せない。
するとその時、彼女の右手に握られた刀が熱を帯び、膨張しだした。
同時に、爪を伝いジークの全身へと焼き付く様な痛みが襲う。
「ングッ……!!」
さらに、その刀がジークへと勢いよく振りかざされた。
それを食らえば、ひとたまりもないだろう。しかし、躱す事は出来ない。
そこで、ジークは左腕を彼女へと伸ばす。刀が届くよりも早く、彼女を無力化するために。
ジークの腕と彼女の剣はほぼ同時に対象を捉えた。剣はジークの左肩を抉り、腕は彼女の首を掴む。
ジークの左肩からは焼け焦げる様な匂いと共に、血が迸る。
そして、アリシアは首を絞められ
「ッ……ウグッ……!!」と苦し気な声を漏らした。
再び、双方の根競べとなった。しかし、ジークの方が僅かに利がある。
その時、ジークの右腕と鍔競り合う刀が砕け散ったのだ。
同時に、ジークは右腕で自身の肩を抉る刀を押し返して見せる。
また、それと共にジークは彼女の首を絞める力をさらに込めた。
「アリシア……。悪いが、このまま気を失ってもらうぞ」
ジークがそう告げるも、彼女は苦し気な表情のまま何も答えられずにいる。そして、彼女の力は徐々に抜け落ちていく。
だがその時、突如としてジークの体が異常をきたした。
「グフッァッ……!?」
彼は口の中から勢いよく血を噴き出し、とてつもない倦怠感に見舞われたのだ。
その直後、体の力が一気に抜け落ち、腕が彼女の首からするりと落ちる。さらに、彼は力なく彼女へともたれ掛かってしまった。彼女の柔らかな感触が全身を包み込む。
すると、この光景にアリシアは、むせ返しながら動揺させられていた。
「ゲホッ……ゴホッ……。これはどういう状況……? 致命傷を与えはしなかった筈だけど……。また、私を動揺させる作戦か何か?」
しかし、ジークは彼女の呼びかけに答えられず、身動き一つ取れない。それどころか、視界が徐々に霞んできている。
――ッここが、限界なのか……。もう少しでいいんだが、もってはくれんか……
ジークは悔しさ混じりに、落ちてくる瞼に抗う。
そこで、彼女はこれが異常事態だと気がついた様子。
「ちょっと、ジーク殿? しっかりしなさい!」
彼女はジークの体を支えると、ゆっくりと地面に下ろしてきた。そして、体を揺らしながら顔面をはたいてくる。
「気を失っちゃだめよ!」
それにより、ジークは何とか意識と気を持ちこたえられた。
彼は力を振り絞り、アリシアの腕を払いのけると、飛び跳ねる様にしてうつ伏せとなる。
「アッ……グッ……」
次いで、彼は何とか這い上がろうともがくが、どうにも腕には力が入らない。
その様子に彼女は呆れながらも、優しく諭してくる。
「もう、無理しないで。大人しくしていなさい。今すぐ医務室に運んであげるから」
そして彼女は、ジークの腕を右肩へと回し、起き上がらせようとしてきた。
しかしその時、突如として取り巻きの一人、赤髪が声を荒げてくる。
「クゥッ!! アリシア様ァァッ!! 新手がお出ましですッ!!!」
そう聞こえたのと同時に、突然ジーク達を取り囲んでいたリングの一部が断ち切られる。
するとそこから、間髪入れずに鎧を纏った黒い影が、アリシアに向かい襲い掛かってきたのだ。そして、鎧が携える巨大な剣が、彼女の眉間を捉え勢いよく振り下ろされる。
それに対し、アリシアはジークを庇いながらも、刀で攻撃を防いでみせた。
「ッ何者!?」
彼女はそう問いかけるが、鎧からの返答はない。
しかし、ジークにはその黒い鎧に見覚えがあった。
「まさか……これは、アイシャの……」
ジークはあの時、ホテルで見た彼女の魔術を思い出しながら、かすれ声でそう呟いた。
すると、それに答える様にして、黒い鎧の後ろから彼女が姿を現す。
アリシアを鋭い目つきで睨みつけるアイシャが。
「そいつを放しな」と告げながら。
そして、彼女の両腕から流れ出る黒い靄の様なものは、絶えず黒い鎧へと注がれていた。
やはり、思った通り、黒い鎧はアイシャの魔術であったのだ。
それに、ジークは驚かされていた。アリシアもまた同じ様子。いや、むしろ彼女の方が彼女の出現にかなり驚いている様子だった。
「あなたは……アイシャ・アスモデウス!? 誘拐された筈のあなたが、なぜこの場にいるの!?」
彼女は、非常に困惑した様子で、黒い鎧の剣を受け止めつつ、そう問いかけていた。
それに対し、アイシャは依然として、彼女を睨みつけたまま答える。
「うちは、誘拐なんてされてへん。そいつに助けられたんやから」
そこで、アリシアは怪訝な表情を見せた。
「助けられた……? どういう事……!? あなたは彼にストーカー被害に遭っていたから治安局へと通報したのでしょ?」
「違う。うちらは、ラジエルの奴に付け狙われてんの! そいつはうちらの恩人よ! だから、解放しなさい!」
アイシャはそう言い放つと、彼女をさらに押し込んでいく。
そこで、アリシアは中腰の状態となってしまうが、
「斬烈波!!!!」と叫び至近距離で衝撃波を飛ばした。
すると、たちまち鎧の剣は砕け散り、そのまま鎧までも真っ二つに砕いて見せる。
「ッ……!?」
それを目の当たりにしたアイシャは、苦し気な表情を見せつつも、距離を取り再び鎧を生成しようとしていた。
だが、それよりも速くアリシアに接近を許してしまう。そして、彼女の刀により、作られつつあった鎧は簡単に砕かれていく。
アイシャは完全に追い込まれていた。次の一手を打つ猶予すらない様子。
だがその時、アイシャは何を血迷ったか生身で彼女へと殴りかかろうとしたのだ。
そして勿論、彼女にそんな攻撃など通用する筈もない。アリシアは刀を投げ捨てると、彼女の拳を悠々と受け止めて見せた。次いで、アリシアは彼女の拳を軽く捻り、身動きを封じてくる。
それにアイシャは必死に抗おうとするが、腕を捻り上げられた事により、上手く身動きが取れない様子だった。
それでも、アイシャはまだ諦めてはいない。彼女は押さえつけられながらも、両腕から再び黒い靄を発しだす。彼女は何とか、鎧を作り出そうとしている。
しかしそこで、アリシアは
「待って。とりあえず、落ち着いて。話は分かったから」と彼女を優しく諭してきた。
それを聞くと、アイシャは腕から発されていた靄を止め、彼女に問いかける。
「ッ……分かったって?」
すると、アリシアは彼女の腕を離しながら、
「あなたが、誘拐されていたわけではない事。それと、彼に掛けられていた誘拐の容疑。それが一先ず晴れたという事よ」と答えてきた。
そして、アイシャは腕を摩りつつ
「そう……。なら、ジークも解放して」と要求する。
しかし、その要求はアリシアに呑まれなかった。
「それはまだ出来ないわ。まだ、詳しく話を聞いていないから」
そこで、ジークが横から口を挟む。
「悪いが、一から話してやる時間はない。再三言っているが、俺は学園長に急ぎの用がある」
それを聞いたアリシアは、即座にジークへと向き直り口を尖らせてくる。
「だから、それで信用しろって方が無理があるのよ!」
それに対し、ジークはため息を漏らしつつも、納得を示す。
「はぁ、確かにそうだろうな」
しかし、それと同時に彼は
「それなら、お前たちも付いて来てくれ。そこで、全てを語る」と提案を促した。
すると、その言葉には少し考える素振りを見せるアリシア。彼女はやっと、ジークの言葉に耳を貸してくれたのだ。
そして彼女はしばらく考え込んだ後に、渋々と言った様子で承諾してくれた。
「わかったわ。それで手を打ちましょう」
そう告げると彼女は、周囲の取り巻き達へ合図を送りだす。
途端に、ジーク達を取り囲んでいたリングが完全に取り払われる。ようやくジークは彼女達に解放されようとしていた。
しかし、アリシアは未だにジークの右腕を肩に回したまま放そうとはしない。
それに対しジークは
「歩きずらいのだが」と文句を入れたが、それが聞き入れられることはなかった。
「我慢なさい。そもそも、まともに歩ける様な状態にないのでしょ?」
彼女はそう告げると、有無を言わせずジークを引きずりながら、校舎へと歩き始める。
ジークはそれに不満を抱きつつも、彼女へと身を任せ周囲を見渡す。
すでに、学園の敷地内には結構な数の学生が集まりだしていた。その脇を抜けていくジーク達は学生の視線を一手に集めるが、この一行に絡んでくる連中などいる筈もない。アリシア達の存在は、かえって心強い護衛となっていた。
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