1.5話 適正試験
――入学式
学園内にある広いお堂へと約一万体にも及ぶ天使と悪魔が集められていた。色とりどりの花束にお堂一面に敷かれたレッドカーペット。我々をもてなすために施された華やかな装飾。
そんな中で、3年間という長くもあり、短くもある貴重な時間を共に過ごす者達は、椅子に腰かけ彼女の言葉に耳を傾けていた。
片翼には白い翼、もう片翼には黒い翼を生やした学園長が長ったらしく話すその言葉を。
恐らく、本当に話を聞いていたのは半数にも満たないだろう。現に、ジークの隣に座る天使らしき者は眠りコケていた。当のジークも話を聞き流している。
やがて、学園長の話もやっと終わった。
そこで、ジーク達は一斉に移動を開始させられる。
これから、我々の能力を推し量る為の適正試験が行われ様としていたのだ。その成績は特に卒業先の進路に絡むものではないらしい。ただ、学園側で学生たちの正確な力を管理したいという意図がある様だった。
それをジークは面倒だと思いつつも、多くの学生に倣いお堂を出て、広いグラウンドへと向かって行った。
すると、そこには10体もの教師と思われる男女が泰然とした態度で学生たちを待ち受けていた。
「これより、適正試験を執り行う。ここにいる試験官があなた方の力を推し量る。如何なくその力を発揮してくれ」
教師の一人が開口一番にそう告げてきた。
それに続いて、別の教師が
「順番にお呼びしますので、呼ばれた方は前に出てきてください」とも言い放ってくる。
そこで、早速呼ばれた10体もの学生が試験官と対峙させられていた。
そしてすぐさま、試験が開始される。
各々、体から炎や水を放ったりして試験官へと襲い掛かっていく。
しかし、その全員が試験官には太刀打ちできず、者の数分で地に伏せてしまう。
彼ら彼女らの力が特段劣っている様には見えない。ただ単純に、試験官らの力の方が数段上であったのだ。誰も試験官には太刀打ちできなかった。
そんな様子を見て、ジークは考える。
――変に悪目立ちもしたくはない。ここは善戦した後、敢えて負けるのが最善であろう
だが、彼女の所為でジークのプランは打ち壊された。
「次はアリシア=ミハイルさんだな。こちらまで、来てくれ」
試験官に呼びつけられた金髪の女天使。彼女は涼し気な表情と優雅な立ち振る舞いで、試験官の男と対峙する。
すると、周囲の天使連中が嬉々とした表情で彼女を見つめ出した。
「三大名門家の中でも、特に武術に優れたミハイル家。その長女たる彼女なら、もしかして打ち倒すんじゃないか?」
「ああ。俺もそう思う」
そんな事を天使達は口々に語り合う。
そして、当のアリシアは右手の中に刀を作り上げ、試験官へと切りかかっていった。
それに対し、試験官は光り輝く槍を携え待ち受ける。
やがて、刀と槍が交錯した。だがそれも一瞬、彼女達は目にも止まらぬ速さで激しい連撃を繰り返す。次々に閃光と火花が迸る。
その勝負は互角にも見えた。だが、僅かにアリシアの攻撃の方が速く重たい。
すると次の瞬間、試験官の握る槍が真っ二つにへし折られる。淡い光を放ちながら粉々に砕ける槍。その拍子に試験官は地面へと押し倒されてしまう。
どうやら、雌雄が決した様だった。アリシアは試験官に刀ではなく、手を差し伸べている。
彼女は易々と試験官を打ち倒してしまったのだ。
そして、次はジークの番であった。
すると先程の天使たちが、またしても余計な事を語り出す。
「今度は、魔界最強の魔王。その息子だぜ。ここで、天使と悪魔どっちが最強か決着が付いちまうんじゃねぇか?」
「ああ。これで、試験官に負ける様な奴なら、俺達天使の敵じゃない」
ジークは好き勝手言ってくる連中に多少苛立たされたものの、気にはしていなかった。
当初のプランは使えなくなったが、試験官にもアリシア=ミハイルにも、遅れを取る事などありえないのだから。
ただ、こんな試験如きで本当の力が推し量れると考えられている事が、馬鹿馬鹿しくてしょうがなかった。命のやり取りとはかけ離れたこんなお遊びでは、ジークの心に火が付く筈もない。
だがそこで、ジークの心とは裏腹に、悪魔達より期待を込めた眼差しが送られてきた。
「頼みましたよ! ジーク様!!」
「あのアリシアが倒せたんだから、あんたなら倒せる筈だ!」
ジークはそれに応えるでもなく、アリシアと同じ試験官の前に立ちはだかる。
すると試験官は満面の笑みで語り掛けてきた。
「まだ、呼んではないが、いやにやる気だな? 火でもついたのか?」
それに対し、ジークは冷めた目で答える。
「そんなのではない。それよりも、さっさと始めても?」
「構わんぞ」
それを皮切りに、ジークは彼に向けて飛びかかっていった。
すでに、鋭い槍の穂先はジークへと向けられている。それにも関わらず、ジークは腕を伸ばし真っすぐ彼の握る槍へと向かっていく。
そして、勝負は一瞬であった。
ジークの爪は一瞬で槍を砕き、その勢いのまま爪先を眼前へと迫らせていた。
その光景に、目を大きく見開き、驚いた表情を見せる試験官。
爪先はすでに、彼の喉元へと触れていた。だがそこで、ジークは爪を押し留める。
「もう、終わりでよろしいか?」
ジークは爪を突きつけたまま、そう問いかけた。
すると彼は、ハッとした表情を見せ
「あ、ああ。見事だった」と答えてくる。
その突如、周囲よりどよめきと歓声が上がった。
「なんだ、あの力は!? 魔術すら使っていなかった様に見えたが……?」
「あ、ああ。それでも、あんなに強いのか……!?」
と愕然とする天使連中。
「流石はジーク様! アリシア=ミハイルなんて目じゃねぇぜ!」
「ああ。圧倒的だったな」
とジークに賞賛を送る悪魔達。
ただそんな中でも、彼女だけはジークへと怪しげな笑みを向けてきていた。
「あれが、ジーク・サタンね。面白いわ」
そして、これ以降だった。彼女が、ジークへと頻繁に絡んでくる様になったのは――
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