#12 ライバル登場
視界が暗転すると俺の眼には広い空間が映っていた。
東京ドーム程広い空間は床が乳白色の大理石みたいな鉱物で出来ていて、あちこちに点在する円卓テーブルには純白のテーブルクロスが掛けられその上に飲み物が入ったグラスや料理を乗せた皿が置かれている。
天井は無く上空ではプラネタリウムみたいに雲一つない夜空に無数の星が輝いており、クリスタルのシャンデリアが10m程の高さで数か所に浮かんでいた。
最初はこの空間で俺1人だったが、次々と人やらモンスターが現れ始める。
魔王と配下のモンスターなのだろうな。
やること無いから取り合えず適当な円卓テーブルの席に座る俺。
すると、俺を見て何か思ったのか黒髪の青年と配下のモンスターらしいタキシード姿の黄色いトカゲ人間が俺に寄って来る。
絡んで来るなよな、めんどくさい。
「おいおいっ、お前まさかモンスター忘れて来たのか?」
黒髪の青年はズボンにシャツというラフな姿をしており、ニタニタと口角を上げて面白そうに俺を見下している。
続いて配下のトカゲ人間も口を開く。
「式典に配下も連れず参加するとは随分と頭の悪い魔王ですな、これでソウジ様と同じ魔王とは思えません」
何か言ってきているが俺は無視することにした。
あちらから手を出して来たら反撃するがこちらからは何もしない。
俺はハンバーガーのモンスターを生み出したいだけだ、ここで騒ぎを起こして手間を増やすことはしない。
「全くだな、こんな馬鹿野郎がオレと同期の魔王とかマジでムカつくわ!」
ソウジとかいう黒髪の青年魔王がわざと大きな声で叫んだことで注目を集め、周囲の魔王達は俺に視線を向ける。
「ぷっ、ハハハハッ!お、おい見ろよコイツ、魔王マーク出してんだけど」
「フフッ、初心者丸出しじゃんっ!」
「だっせーっ!!」
俺に気付いた魔王や配下のモンスター達が指をさして俺を笑う。
まさかここまで言われるとはな、しかも魔王マークって何だよ、ダンジョンの侵入者に俺が魔王だとバレたのそれのせいじゃないだろうな。
それと、馬鹿にされたがここで暴れるのは利口な判断ではない。
確かに今俺を馬鹿にしてきた連中は瞬殺出来るかもしれない、だが俺は知っている、どうせこの世界でも強い美少女が居るはずだ。
S級冒険者の美少女を軽くあしらう程の力を持った上位美少女が。
俺はこの世界の美少女がどれ程ぶっ壊れているのか知るまで不用意に暴れたりしない。
「君達何騒いでんのかな、煩いんだけどっ」
また誰かやって来たみたいだ。
俺の周囲から笑い声が止み、モーセの如く集まっていた野次馬が道を空ける。
野次馬をどかしてやって来たのは青いマントを身に纏った黒髪の少年だった。
少年の後ろには丈の短い白和服を着た金髪狐耳尻尾の美少女が少年を守る様にケアしながら歩いている。
言ったばかりで美少女のお出ましとは気が滅入る。
美少女とは嫌な思い出しかないからな。
強い能力を搭載し過ぎなんだよな。
前世と前々世では、誰がこんな世界創ったんだと叫びたくなるほど無茶苦茶な性能の美少女がわんさか居て俺に絡んで来たからな。
「ワハハッ!なんじゃお主、魔王マークを外しておらんではないかっ」
のじゃロリ狐っ子が俺を指差して笑う。
主人の黒髪少年がのじゃロリ狐っ子の短い和服から覗くムチムチの太腿を揉んだ。
「あんっ、ご、ご主人様ぁ、今は公の場なのじゃから許してくれんかのぅ…」
のじゃロリ狐っ子はそう言いつつ、赤らんだ顔で黒髪少年の腕に両手を絡め、見かけの割に豊満な胸をわざとらしく少年の腕に押し付ける。
何見せつけてくれてんの。
気持ち悪いから止めろ。
「ムフッ、カヨがそこの無知な人をいじめ過ぎない様に止めただけじゃないか」
「あの男が何も分かって無いのが悪いのじゃ、あっんっ、ご主人様ぁ続きはカヨのベッドでお願いしますなのじゃっ」
カヨとかいうのじゃロリ狐っ子の懇願で黒髪少年は渋々揉んでいた太腿を解放し、俺を憐れみの籠った眼で見る。
「カヨが失礼したね、お詫びに教えてあげるけど、生まれたばかりの魔王は王冠を被った頭蓋骨が頭上に出ているんだよ、その状態だと人間に魔王とバレてしまうからダンジョンコアでオフに設定するのが常識なのさ、ボッチの魔王さん」
「ワハハッ!ご主人様こそボッチは言い過ぎじゃろう」
「本当の事だから別に良いじゃないか」
のじゃロリ狐っ子と黒髪少年がクスクスと笑い、2人は俺から離れて行った。
2人が去ると俺の周りに居た魔王達がざわつきだした。
「…あれって確かSランクのビースト種だろ」
「マジかよっ、Sランクのモンスターなんて初めてみたぜっ」
「魔力が半端なかったから只者じゃねぇとは思ったが、まさかSランクだったとはな」
「この1か月でよくSランクを引き当てれたよな」
口々にのじゃロリ狐っ子の話が聞こえて来る。
Sランクのモンスターを連れてるあたりあの少年には何かあるんだろうな。
何故かまた俺の周りから話声が止み、別の方向から魔王とモンスターの1組がやって来た。
黒いスーツのズボンに白いワイシャツを着た黒髪の成人男性と、紫のドレスを着た赤眼銀髪ロングの美少女ペアだ。
よく見れば黒髪の魔王は全員日本人の顔だ。
何で俺の所にこんな集まって来るんだよ。
「なんだ、雑魚じゃないか、来て損したな」
黒髪の男が俺を見て残念そうに言葉を吐いた。
「申し訳ございませんマスター、美味しそうな血の匂いがしたのですが、私の勘違いですわ」
赤眼銀髪ロングの美少女が口を開くと長い犬歯が見えた。
赤い眼に長い犬歯、もしかしたらあの美少女は吸血鬼かな。
「モンスターも連れてない雑魚なんて見ても仕方が無い、次は強者を探しに行くぞシャルロット」
「今度は間違いませんわっ」
吸血鬼の美少女と黒髪の男が立ち去る。
するとまた俺の周りはヒソヒソと噂する。
「今度はSランクのアンデッド種だぜありゃあ」
「おいおい、同期でSランク持ってる奴が2人も居るのかよっ」
「オレのゾンビキマイラが怯えちまってるぞ」
「なんで1か月でSランクを引き当てれんだよ畜生がっ」
また同じような展開だったな。
まあ俺は何も言わんが。
「すまない通してくれ」
入れ替わりにまた誰か来たみたいだ。
周囲の魔王達を掻き分けてやって来たのは、飲み物入りのグラスを持ち歩いている3組の魔王とモンスターだった。
魔王の方は全員黒髪の日本人、モンスターはそれぞれ違う。
1組目のモンスターは露出の多い恰好をしており2本の角と蝙蝠の羽を生やしたピンク髪の美少女。
2組目は学校のセーラー服を着た美少女だが、腕をゼリー状にして魔王にしがみ付いている。
最後はメイド服を完璧に着こなすライトブルーのショートヘアーをした美少女でロボットの様に表情が冷たく固い印象だ。
どうせまたさっきの奴らみたいに俺を馬鹿にして好き放題吐くんだろうな。
あ~嫌だ、後先考えずに暴れてしまおうかな…。
いや、それはハンバーガーにやらせるから今は我慢か。
「…戻ろうか」
3組の魔王とモンスターは俺を見るなり気の抜けた様な顔をして来た道を帰って行く。
そうそれで良いんだ帰れ帰れ。
「お、おい、あの3体もSランクだったぞどうなってんだ」
「この会場にSランク持ちは一体何人居るんだよ」
また周りの魔王達がざわつく。
俺もSランクを引き当てた魔王が多いとは思うが、正直S級冒険者と同じような力だと感じた。
もしSランク持ちしか居ないなら帰り際に人暴れして帰っても良さそうだな。
「うわーっ!?」
仕返しのことでも考えていると、何やら別場所で悲鳴が聞こえて来た。
この位置では魔王達の身体が邪魔で様子が見れない。
まあ別に良いかと放っていると、騒動の原因らしき人物がふらりとやって来た。
いやこっちには来るなよ。
「おかしいなぁ~、何でわからないかな~」
こもった声でぶつくさ言いながら俺の近くを徘徊している。
この人物も黒髪の男だが、さっきの奴らとは明確にジャンルが違う。
七三分けの黒髪に分厚いメガネ、灰色のスーツに青と白のラインが入ったネクタイを巻き、黒い革靴を履いていた。
サラリーマンやんけ。
それも営業とかじゃない技術職とか裏方の仕事してそうなタイプのサラリーマンだな。
確かにこの出で立ちの魔王が居たらいじられるだろうなと思ったが、原因はサラリーマンの連れているモンスターにあった。
サラリーマンの後ろについて来ているのはうねうねと動く巨大なミミズだった。
「ヒェッ、気持ち悪っ」
「ミミズのサイズが式典のルール違反だぞっ!どうなってやがるっ!」
周囲の魔王はドン引きしてミミズから逃げる。
「こんなに可愛いのになぁ~」
サラリーマンの男は周囲の反応を気にせず巨大なミミズを自慢気に撫でながら徘徊している。
この男はヤバイ。
俺は直感でそう思った。
まず美少女モンスターじゃないしカッコいいモンスターでもないミミズを配下にしていること、そしてこの場に居る魔王全員を敵に回してるかもしれない状況なのに全く動じてない。
強者の匂いがする。
俺がサラリーマンを観察していると、眼が合った。
メガネのレンズ越しに見えるその瞳は一見やる気が無さそうだが、例えようの無い
ダンジョンコアの案内人から魔王について一通り説明を受けているだろうに、ミミズで生き残ろうとする信念、その心意気、他の魔王とは一味も二味も違う。
サラリーマンも俺と眼が合った瞬間からずっと俺を見ている。
やがてサラリーマンは俺から目を離さずにゆっくりと近づいて来た。
「あのぅ、あなたもミミズお好きなのでしょうか?」
どうやら俺がミミズに興味を持って居ると勘違いしたらしい。
俺は俺で勝手にライバルだと思ってたしな。
「…いえ」
「あっ、そうなんっ、はいっ、わかりましたそれではっ…」
サラリーマンはすぐに俺から視線を外すと恥ずかしそうに去って行った。
コミュ障の会話みたいな感じになってしまった。
だが、あちらの方は勘違いだったが、俺の読みは当たっていると思う。
あのサラリーマンは明らかに強者の風格がある。
その前に絡んできたSランク美少女たちよりも数段強そうだ。
俺はマジでそう思ってる。
チリンッチリンッチリンッ
サラリーマンの事を考えていると、この空間全体に鈴の音色が聞こえて来た。
「新たな魔王達よ、またこの時期がやって来たぞ」
中央に赤い光の柱が立ち昇り、中から少女の声が拡声されて聞こえてくる。
光の柱が止むと、中央に円形ステージが出現し、ステージの上にオレンジ色のツインテールをした美少女が黒いローブ姿で現れた。
「私の名はマルネ、お前達を招集した魔神だ」
魔神と聞いて周囲がざわつく。
また美少女だよ、でもこの美少女は他のとどこか違う。
前世と前々世で俺を追い詰めた難敵たちと似た雰囲気がある。
「自己紹介も済んだ事だし早速だが本題に入ろう、と言っても説明するだけだがな」
魔神マルネと名乗る美少女が話し始め、周囲の魔王は静かに聞く。
「お前達魔王の目的は一つ、生き残ることだ、単純なことだがこの世界では最も難しいことでもある」
マルネが一拍空け、その整った顔立ちで魔王達の反応を見る。
「魔王1人では生き抜くことも難しいがクランに加入して仲間の魔王達と協力すれば困難も乗り越えることが出来るかもしれん、残り2か月の間に考えておくことだ」
クラン?なんだそれ魔王が結託出来るのか?
と俺は疑問に思ったが、魔王の殆どは知っていたのか頷いている者も居た。
「次に、この中で素晴らしい功績を達成した魔王を紹介しよう、ダンジョンバトルの参考にしてくれ」
何時の間にかマルネの手には数枚の用紙が握られており、用紙に目を移して一瞬ピタリと止まった。
「なんとっ!まさか
俺に絡んできた美少女以外にもSランクのモンスターを引き当てた魔王が居るみたいだな。
もし俺がまともに魔王やるならこの式典にはSランクなんて切り札を連れてこずにわざと数ランク下のモンスターを連れて来る。
そういう魔王が居たのか、それとも俺に絡んで来なかっただけなのか。
マルネがSランクモンスターを手に入れた魔王を読み上げる。
「一気に言うぞ、創造の魔王ジョン、時空の魔王ジョニー、紅蓮の魔王ポール、轟雷の魔王スティーブ、暗殺の魔王ケンヤ、虚空の魔王ヤニー、爆破の魔王チャン、流土の魔王ミズ、以上だ」
1人1人読み上げる時にマルネが視線を送る、その視線の先に読み上げた魔王が居るのだろう。
最後のミズという魔王が読まれると、サラリーマンが深々とお辞儀をした。
どうやらあのサラリーマンはミズというらしい。
というか、魔王に二つ名あるんだな。
自分で勝手に決めたんだろうか、なんで二つ名なんて持ってるんだろう。
俺には二つ名なんて無かったぞ。
「最後は皆が一番気になっているであろう、公開ダンジョンバトルをやろうじゃないか、それじゃあ無作為に選ぶぞ、創造の魔王ジョンと無能の魔王ハルトはこのステージに来たまえ」
無能と聞いて周囲の魔王が爆笑する。
「ぷっ、無能ってお前っ」
「「ハハハハッ!!」」
まさか無能の魔王って俺じゃないよね。
「どうした無能の魔王ハルト早く来な…」
言いかけたマルネが俺を見て固まる。
オレンジの瞳は俺を射抜く様に睨む。
まあ、俺らしいし行ってやるか。
ステージまで歩いて行くと、金髪のじゃロリ狐っ子と青いマントを纏った黒髪少年が待っていた。
「無能の魔王ってボッチの魔王だったんだね~」
「ワハハッ、無能でボッチとは恐れ入るのじゃ」
相変わらず好き放題言って来るなこいつ等。
「ダンジョンバトルなんてしなくても今ここで戦ったら良いだろ?」
マルネを見ながら挑発する俺。
これが魔神、なかなかやるな。
俺から目を離さない。
それに少量だが俺の闘気を向けられて物怖じしないとは大物だ。
「やっと口を聞いてくれたと思ったら何それ、僕のカヨと魔王の君が戦うっての?」
創造の魔王ジョンとかいう黒髪少年が何か言ってるが今はそれどころじゃない。
マルネと俺はお互いの力を探る様にずっと観察し合っている。
「待て創造の魔王ジョンよ、私の力でこの空間での戦いを禁じている、お前も魔王ならダンジョンバトルで思い切り力を振るえ」
ジョンに言ったセリフだが、マルネはまだ俺から目を離さないでいる。
「ふんっ、魔神様が仰るなら従いましょう、良かったな無能のハルト、ダンジョンバトルが始まるまでの数秒命拾い出来て」
「ハルトとやら魔神様にお礼を言うがいいのじゃ」
ジョンとカヨはどうでもいい。
だがこの魔神は無視できない。
僅かに動かした手や少しだけ力を込めた闘気に良い反応をしている。
「助かったのはお前の方だ創造の魔王ジョン」
マルネの言葉にジョンとカヨが驚く。
「なっ、それはどういう…」
ジョンが何か言い切る前にマルネが右手を上げる。
俺は素早く反応してカウンターの体制に入ったが、ジョンとカヨはまだ反応出来てない。
「攻撃を仕掛けた訳では無い、言っただろう、ダンジョンバトルを始める為にお前達をダンジョンに戻すだけだ、ダンジョンに戻ればすぐに始まるから覚悟することだ、ほれっ」
最後まで俺とマルネはお互いから目を離さず、マルネが言い終わると同時に俺の視界が暗転した。
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