#11 研究報告

今日は俺がこの世界に転生してから丁度1か月になる。


ダンジョン内部は以前のままで変わりない。


俺は今日もまたダンジョンコアの隣に設置した茶色い机の椅子に座りダンジョンコアの能力を研究していた。


眼を閉じて机の上に置いた両手に集中する。


ジジジッ


少し距離を空けていた右手と左手の間から細かくはじける様な音が聞こえてくる。


眼を開けると机の上には粘土で作った灰色のパンみたいな物体が出現していた。


なるほどなるほど。


目標にはまだ遠いが自分が日々成長しているのを感じる。


フフッ


心の中で喜ぶ俺。


この1か月で俺はダンジョンコアの能力を解き明かすことに成功した。


思い返してみれば中々にハードだった。


ダンジョンコアの能力を研究するにおいて事前にタマから知り得た情報は2つだけ。


ダンジョンコアはDPを使って能力を発動させる、ダンジョン内で侵入者が死ぬとDPが入る、だ。


この2つの情報だけでどうやって答えに辿り着いたのかと言えば、文字通り手探りだったからと言える。


ダンジョンコアでアイテムを購入すると出現する時に購入したアイテムが一瞬だけ淡い光に包まれるのを覚えていたから、ハンバーガーの材料を買っては出現のタイミングに本気で反応して淡い光を触っていた。


そして偶に来る侵入者を殺さず捉えておき、ダンジョン内で殺した瞬間に何がどうやってダンジョンに吸収されるのか調べる為、侵入者をあちこち触りながら原型を留める程度に手加減して殺したりしていた。


そうやって手で触っていると俺に新しい感覚が身に付きダンジョンコアの力とDPが一体何なのかを知ることが出来た。


ある日侵入者を触りながら殺すと、例えようの無い何かが伝わって来た。


それは打ち上げ花火の様に侵入者の身体から爆ぜて広がるエネルギーだった。


ストックしておいた侵入者を殺して何度も確かめ、それが死の力だと判明した。


死の瞬間に生命が破裂して混沌としたエネルギーが生まれるのを感じ取れたんだ。


俺はこれを死力と呼んでいる。


その後、飛び散る死力がダンジョンに吸収されて消えるのもしっかり感じ取った。


死力がDP《ダンジョンポイント》でダンジョンコアの能力を発動させるのに必要なエネルギーだと理解した。


俺は侵入者とダンジョンコアのアイテム購入で死力を触り続け、死力を会得することが出来た。


俺とダンジョンコアが元々同じ存在だから出来たことなんだろうな。


今はダンジョンコアから引き出した死力でハンバーガーを作れないか試しているところだ。


まだ粘土みたいなパンしか出来ないが、物体と生き物の創造がツリー構造になっていることは分かっているから時間の問題だと思っている。


ハンバーガーが分岐先となるような物体を探し当てれば良い。


どういうことかと言えば、死力で生み出すことが出来る物体は完成品のビジュアルをイメージして造形するのではなく、まるで成長させるかの如く完成品までの過程を作り続けなくてはならない。


例えば剣を作るなら鉱物から作り、なまくらの剣から鋼の剣、といった具合に作る場合はツリー構造に沿って段階的に作らなくてはならない。


俺はたった今パンのツリーにハンバーガーを持ってこようとして失敗した。


ダンジョンコアにある既存のツリーにはハンバーガーが無いからどれが派生元か分からない。


だがダンジョンコアから購入したアイテムでハンバーガーが作れるのだからどこかの派生ツリーにハンバーガーが誕生してもおかしくはない。


次は肉からやってみるかな。


「ハルト様、そろそろお時間です」


色々と考え事をしていると口の周りにケチャップを付けたタマが終了を告げに来た。


今日は魔王誕生式オープニングセレモニーに出席することになっている。


俺は行きたくないが強制らしく、時刻になったら強引に転移させられるのだとか。


あと少し時間があれば死力でハンバーガーを生み出せたのにお預けとはな。


実に不愉快だ。


「俺以外の魔王も沢山来るんだよな?」


「はい、新人魔王が全員集まります、今回の人数は把握しておりませんが前回は110の魔王が集まったそうです」


タマは言い終わると口の周りに付いたケチャップを指ですくい取り口へと持って行った。


魔王って110人も居たのかよ、多すぎない?


「確かモンスターを1匹同伴出来るんだよな?」


単純に計算して220体も集まるわけだ、想像するだけで暑苦しいな。


「そうなのです、ハルト様は1匹もモンスターを従えていらっしゃらないので他の魔王にからかわれないかタマは心配です」


そう言いながらタマはキッチンに置いてある新作ソースをチラチラ見ている。


おい、味見するんじゃないぞ。


「前にも同じことを言ったが、大丈夫だ」


そう言うと同時に俺の視界は暗転した。


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