#7 魔王が戦います
「大変ですハルト様っ!ダンジョンに侵入者が来ましたっ!」
いや遅っ。
ハムスターのタマが今頃ワチャワチャと慌てているが、俺はもうダンジョンコアの情報で侵入者が来たことを知っている。
「知ってるよ、だから今こうして入り口に向かってるんだぞ」
ダンジョンの最下層地下2階から地上1階入り口まで早歩きだ。
まあ前世の力を引き継いでいるから空間移動術を使えると思うけどタマが付いてくるもんだからさ。
「そ、それにしては凄く落ち着いていらっしゃいますね…」
結果はなんとなく分かるよ、ダンジョンの壁を何の技も使わずに片手で破壊出来たからな。
「大丈夫、大丈夫」
不安がるタマを連れて地下1階を通過する。
地下1階では先程ダンジョンコアの能力で作成した畑が広がっているのが見えた。
あ、本当に農場が出来てるよ凄いな。
ライトも無いのに部屋が明るいのは不思議だが、まあ、それもダンジョンコアの能力なのだろうな。
「ハルト様、本当にモンスターも従えずお一人で出向かれるのですか?」
タマと俺は運命共同体みたいなものだから心配する気持ちは良くわかるが、逆に言えばまだそこまで信頼されてないということになる。
「タマも居るじゃないか」
「え゛っ、わ、私はダンジョンコアが実体化しただけでモンスターではございませんし、何の戦闘力もありませんよっ?」
勿論、知ってて言ったよ。
「つまり最強ってことだな」
「ち、違いますぅっ!私は戦闘ではお役に立てないのですよっ!」
「どうせ弱い弱い詐欺だろ」
「そんなことしませんっ!私はハルト様に虚偽の発言をしたりしませんっ」
「わかったから落ち着いてタマ」
「むう~っ」
タマをからかいながら進み、地上1階の部屋に到着した。
俺の正面に2人の人間が見える。
メタリックフルプレートの人と金髪耳長腹出し少女だ。
なんだなんだ、俺はてっきり外からモンスターが来たのかと思ったんだけどな。
この世界の第一村人が侵入者ということになる。
残念だが俺はハンバーガー創りに専念したいから侵入者を生きて帰すつもりはないんだよね。
どうせ逃がしたら次々に人が来ることになるからな。
こういうことは前世でもあったから良くわかる。
ここで魔王じゃない振りしてこの場所がダンジョンじゃないと説得して帰しても無駄なんだよ。
危険じゃないと知れば旅人や今みたいに偶然通りかかった人は偶に来るだろうし、来る度に毎回説得する必要がある。
もし説得に応じてくれなかったり怪しまれたりしたらそれまでの苦労が台無しになる。
ならいっそのこと、最初から殺してしまえば良い。
俺魔王だしさ。
殺さなくても牧場で飼うとか他にも方法があるかもしれないが面倒だ。
殺して次々に人が来たとしても、全員殺してやればすぐに客足は止むだろう。
それでもいずれ更なる強者がやって来るだろうが、その頃にはハンバーガーも無事に誕生してるだろうから後の事はどうでも良い。
俺の第一目標はハンバーガーを生み出すことなんだから。
この2人には死んでもらうしか無いが、その前に一つ確認しておきたい事がある。
「こんにちは」
武器を構えて臨戦態勢の2人に笑顔で声を掛ける俺。
「…馬鹿にしてるのかお前は」
メタリックフルプレートの人物が大剣を俺に向けて怒りを含んだ言葉を返してきた。声からして男だと分かる。
こっちは何もしてないのに怒ってるなあの人。顔は見えないけど声で分かる。
もしかして俺が魔王だってバレてるのかな。
後ろにタマが居るし。
「いや挨拶しただけだろ」
俺の言葉を聞いて耳長美少女がギロリと俺を睨む。
「ふざけているのでしょうかこの魔王は、早く片づけましょうリーダー」
やっぱり魔王バレてました。
何でバレたのか後でタマに聞いとこ。
「何かバレてるみたいだから先に聞いとくけど、お前等誰?強いの?」
なんか相手さん俺と対峙しても結構余裕そうなんだよね。
前世と前々世では何時も警戒される立場だったからこういうの新鮮だな。
「やれやれ、生まれたてとは言え魔王がノコノコ出てくるとは酷いな、これからすぐに死ぬ哀れなお前に免じて冥途の土産に教えてやろう、俺達はS級冒険者チーム"暁"だ」
酷い言われ様だが、聞きたい情報は貰えたな。
冒険者ね、勇者の世界にそういうの居からある程度予想はつく。
後ろでタマが「ひっ」と小さな悲鳴をあげてたからS級冒険者って結構強いらしい、これ終わったらタマに聞いてみよう。
「教えてくれてありがとう、おかげで俺の力がこの世界でどの位なのか参考に出来るよ」
「フフッ、S級冒険者を前にして新米魔王が何を言ってるのでしょうか」
クスリと耳長美少女が笑う。
ここが出来立てのダンジョンってことも分かるのか、それも後でタマに聞こう。
「この馬鹿魔王は後ろの丸い雑魚モンスター1匹で俺達に勝てるとでも思ってるんだろう」
フルプレートの男と長耳美少女が怯えるタマを見て笑う。
「勘違いするなよ、後ろに居るタマはモンスターじゃないし、戦闘は俺がする」
「フンッ、馬鹿もここまで来れば笑えんな、勘違いしているのはお前の方だぞ新米魔王、魔王に戦闘能力など無いっ」
そういうと同時にフルプレートの男が凄まじい勢いで大剣を俺に振り下ろす。
─が、大剣は俺の左手に掴まれて止まった。
「なっ、なんだとっ!!?」
フルプレートの男が掴まれた大剣に力を込めるのが剣越しに伝わって来る。
「クソォッ!"重魔剣陣"ッッ!!」
フルプレートの男が何やら叫ぶと、銀色をした光のベールがフルプレートの男から湧き出した。
「ま、まさかリーダー本気ですかっ!?」
フルプレート男の行動に耳長美少女も驚いている様だ。
この男ガチだなコレ。
フルプレート男の出した力のせいか周辺の塵や小石が舞う。
随分とフルプレート男は力んでいる様子だが、俺の左手に掴まれた大剣はピクリとも動かない。
「う、ウソだっ、こ、こんな事がっ、クソぉおおっ!!」
フルプレート男を覆う銀のベールが更に厚みを増した。
だが大剣はビクともしない。
自分で発動した能力に装備が耐え切れなかったのか、フルプレート男の鎧にヒビが入る。
「リーダー援護しますっ!」
ここまでの状況になってようやく耳長美少女が背中のクリスタルで出来た弓を構える。
耳長美少女周辺に緑の光が渦巻き、俺に狙いすました矢が巨大な光の矢に変貌する。
「"スピリットパワーショット"っ!!」
耳長美少女から放たれた巨大な光の矢は一直線に俺の頭目掛けて飛来する。
風切り音を発生させて猛進する巨大な光の矢は的を射る事無く、俺の右手にしっかりと掴まれて光を失った。
「そ、そんなっ、私の矢が素手で止められるなんてっ…」
「なっ、何者なんだお前はっ!」
ワザと相手の技を受けてみたけど、まあこの程度の奴らじゃ俺の力がどれ程なのかわからんな。
こいつ等の実力はもう十分わかったけどね。
そろそろ終わりにしようか。
「さっき生まれたばかりの新米魔王ハルトだ、さようならお二人さん」
バキンッ
両手に掴んでいた大剣と矢が同時に壊れる。
俺は右手を握りしめて振りかぶった。
右手を中心に空間がぐにゃりと捻じ曲がる。
俺は2人に向けて右拳を打った。
ドゴォォォォォオオオッッッッ
地上1階フロアに測り知れない衝撃が発生し、2人を消し飛ばした衝撃は止まらず入り口の通路をさらに大きく破壊してダンジョンの外へ解き放たれ進行方向の自然を破壊し尽くした。
「さ、帰ろっかタマ」
後ろを振り向くと、腰を抜かして床に仰向けで寝転がるタマが見えた。
「は、はわわわわっ…」
タマはパクパク口を動かすだけで立ち上がろうとしない。
「しょうがないなぁ」
俺はタマを抱きかかえてダンジョンコアのある地下2階まで下りて行ったのだった。
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