#6 S級冒険者入ります

時はハルトがダンジョンの壁を破壊した頃までさかのぼる。


ハルトの破壊音がダンジョン外へ広がり、ダンジョンを囲む大森林に轟いた。


その轟音は大森林を訪れていた3人の人物にも届いたのだった。


「おい、聞こえたか」


そう口を開いたのはメタリックなフルプレートの人物だ。


ヘルムのフェイス部分だけ上に上げている為に顔が見えている。顔からは30代くらいの男だと分かる。


メタリックフルプレートの男は背負っているメタリックな大剣の柄を右手で握って立ち止り、首を動かさずに目だけ左隣の人物に向ける。


「ええ、リーダーより耳は良いですから」


長い金髪をした耳の先が長い少女が、このグループのリーダーらしいフルプレートの男に答える。


耳長の女性はフルプレートの男とは対照的な恰好で、ヒラヒラとした薄い生地の上着とスカートは露出度が高く動きやすそうだ。


そして背中には綺麗なクリスタルの弓を背負っている。


「モンスターかな?」


耳長女性の後ろに居る茶髪のショートヘアをした少女が不安気な声と表情で2人に質問する。


茶髪の少女は純白のローブを着た格好で、不安からか銀の長いロッドを両手でギュッと握って周囲をキョロキョロと眼で探っているのだった。


「私の耳ではそこまで分かりません、どうしますかリーダー?」


耳長女性がフルプレートの男に判断を仰ぐ。


「面倒でもS級冒険者が無視するわけにはいかない、調査に行くぞ」


フルプレートの男が轟音の聞こえて来た方向に向かって歩き出す。


モンスター討伐を主な仕事とした冒険者という職業の中で、S級というのはまさに強者の証明だという事実もあってリーダーは自信に満ち溢れている。


「えっ、まだクエスト達成して無いよ?」


茶髪の少女はまだ不安に感じているのか、轟音が聞こえて来た方向に行く事を渋っていた。


「まだ時間も十分あるし、クエストは調査した後で良いだろう」


「だそうですよメグ」


フルプレートの男と耳長女性は諦めろと言いたいらしかった。


メグと呼ばれた茶髪の少女は、ガックリと肩を落とす。


…リーダーはすぐ首を突っ込むんだもんなぁ。


メグの心の中ではチームへの不満とこれから先の恐怖が激しく渦巻いている。


この3人のチーム"暁"の中で一番弱いメグは2人の基準で戦うモンスターに不安を感じていた。


好戦的でかつ正義感のあるリーダーはこういう異変にすぐ飛びつくが、メグには悩みの種だ。


「え~、レムも調査したいの?」


耳長女性ことレムを仲間に出来ないか探るメグ。


「私はギルドの規定に則った調査という程の細かい情報収集は好きではありませんが、先程の出来事は気になりますね」


「ソウデスカー…」


調査したいってことじゃんそれ。


レムはエルフ族という長い耳と美しい外見の種族で、普段はメグにとても優しい姉の様な存在なのだが、"暁"として動くときはリーダーに従うのを当然だと思っている節があるらしくメグの味方になることが殆どない。


メグの気持ちはそのままに、3人は森の中を堂々と突き進む。


轟音のした方に進む度、ロッドを持つ両手から冷や汗が湧く。


…おかしい。


メグは何時もより緊張と不安が大きいことに気が付いた。


何時もは自分が弱いせいで泣き言を言っているだけなのだが、今回はなぜか妙な胸騒ぎがする。


気のせいかもしれないが、自分の勘はよく的中するのだ。


「ね、ねえレム、やっぱりさ、放っておかない?」


「はぁ、リーダーは調査すると言ってますし、それにこの様な経験はメグにこそ必要です」


レムはため息を吐きながらメグに言葉を返す。


レムは当てにならないかぁ。


後ろからチラッとフルプレートのリーダーを見るが、直に視線を地面に映す。


一度方針が決まった後ではリーダーに何を言っても無駄だとメグは知っている。


「はぁ~…」


メグが大きなため息を吐いてネガティブを口から出す。


その間にも3人はどんどん森を進んだ。


「何だここは?」


かなり歩いた頃合いでそれは見つかった。


見た事の無い遺跡だった。


石材を組み合わせて建てられた遺跡が森の中に鎮座していたのだ。


「私も知りません」


「アタシも知らないよ」


"暁"はこの大森林に関するクエストを結構受けたが、この様な遺跡は見たことが無かった。


「まさかダンジョンか?」


ダンジョンとはモンスターの巣のことで中にはモンスターを生み出す魔王が居る。


「しかし、この辺りのダンジョンは全て昔に攻略されましたよ、それにここまでの道のりで全くモンスターを見かけませんでした」


この大森林は大昔に複数のダンジョンがあったこともあり多数のモンスターが今なお生息しているのだが、レナの言う通り何故かこの遺跡周辺にはモンスターを見かけなかった。


「それは俺も分かってる、この遺跡は多分、最近出来た新しいダンジョンなんだろう」


「誕生したばかりで我々"暁"に見つかってしまうとは随分運の悪いダンジョンですね」


予測がついてリーダーとレムの表情が緩む。


2人はもう攻略した気で居るみたいだけど、アタシはそう思わない。


もし誕生したばかりのダンジョンなら、あのの音は何?


メグは納得いかない様子だった。


そしてとうとう、3人は本当の異変を目にする。


「なっ、なんだこれはっ!?」


入り口が見当たらなかったので周辺を回ってみた時に発見した。


遺跡の壁が破壊されていたのだ。さらに遺跡を通り越して一直線に何かが抉り通った跡があった。


壊れた遺跡の先にある岩や木々が1kmほど先まで抉り取られている。


「し、信じられませんっ!ダンジョンは破壊不可能のはずですっ!」


S級冒険者の2人が言う通り、ダンジョンは不思議な力に守られて破壊出来ない。


じゃあ一体ここで何が起きたのだろうか。


3人で念入りに周囲を観察する。


「…もしかして何かがこの遺跡から出て行ったのか?」


「可能性はあります、遺跡の破片は全て外に散っていますし、ここで封印されていた何かが解き放たれて逃げ出したのかもしれませんね…」


「ならすぐにギルドに報告するべきだな、ダンジョンを破壊出来るような奴が野に放たれたとあっては大事だ」


違う…。


「そうですね、ではその前に遺跡の中を確認してみましょう」


「ああ」


ダメっ…。


先程ポッカリと開けられた遺跡の中をメグは見た。


穴の中に何かを見た訳では無いが、危険を察知したメグの頭は恐怖で支配され、強張った喉から声が出なくなってしまっていた。


メグの事など知らず、リーダーとレムは遺跡の中に入って行く。


行っちゃダメっ!


っ。


まだそこに居るっ!


「ハッ、ハァッ」


メグは激しい呼吸になり声を出すことが出来ない。


追いかけて止めようにも足は震えて一歩も動けなかった。


リーダーとレムは遺跡の穴へと消える。


メグがリーダーとレムを見たのはそれが最後だった。


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