#3 魔王のお勉強
「
もし本当なら、俺が外に行ってる間に災害や人為的破壊で放置した球が壊れたら終わりじゃないか。
球を持って行くにしても重そうだし、勇者時代に使ってた魔法のカバンとかあれば良いんだけどさ持ってないしな。
「私は球ではなくダンジョンコアですが」
なんだなんだ、まだ気にしてるのかこの球は。
「ごめんごめんダンジョンコアさん、教えて」
球に謝る俺。
すぐに機嫌が直る球。
「悦んでご説明させて頂きますねっ、まずダンジョンとは魔王が支配する領域を指します、そしてハルト様は新たに誕生された魔王です、魔王誕生と同時に対を成す
なんやてぇ。
さっきまで球の言ってたこと聞き流してたけど、俺って魔王に転生したんだな。
人から外れてしまったのは残念だが、丁度自由に生きるつもりだったし魔王でも別に構わんか。
ってか魔王になってしまったことより俺と球の関係の方がヤバくないか。
「じゃあダンジョンコアは俺ってこと?」
「はい、仰る通りです、意識は別々ですが命は共有しているとお考え下さい」
その割に俺の事は名前くらいしか分かって無いんだよな。
「仕方が無い、ダンジョンコアを持ち運ぶよ」
これからずっと持ち歩かないとな。
「い、いけませんハルト様っ、ダンジョンコアはダンジョンから出ると消滅してしまいますっ」
あ、そうなの。
魔王って変な生態だな。
地球の動物図鑑には絶対載ってそうにない様な生態じゃないか。
「え~、俺がずっとダンジョンコアの御守りをしないとダメってこと?」
これは
折角自由に生きるつもりなのに酷いぞ。
「フフフ、勿論そんなことはございませんよ、魔王はモンスターを生み出すことが出来る唯一の存在なのです、生み出したモンスターにダンジョンを守らせることでハルト様が安心してダンジョンの外へお出掛け頂けます、他にもダンジョンに罠を設置したりダンジョンの改築を施すことで侵入しづらくなるでしょう」
球に笑われたことは置いといて、流石魔王、モンスターを生み出せるのか…正真正銘の人外だなこりゃ。
この世界の魔王がどういうポジションなのか知らないけど、まぁ正義の味方じゃないだろうな。
「どうやってモンスターを生み出すんだ?」
俺が妊娠することとか言い出したら球は置いて行くからな…。
「モンスター生み出す方法は召喚です、召喚する方法は全部で3つの方法があり、合成召喚、
なるほど、召喚か。
俺が妊娠する必要は無さそうで良かった。
確か勇者時代には召喚士とかいう奴らが居たな。
奴らに召喚されて出て来たのは大抵何かの美少女だったが…。
「ダンジョンポイントって?」
合成召喚も召喚チケットも何となくイメージ出来るが、DP召喚だけは全く分からんぞ。
「ダンジョンポイントとは、ダンジョンコアの能力を使用する為に必要なエネルギーを数値化したもので、DP召喚はDPを消費してモンスターを召喚します」
モンスター召喚はダンジョンコアの能力なのか。
ダンジョンコアは俺だから実質俺がやってることだと言えるわけだけどもさ、俺が直接召喚するんじゃないのね。
「どうやってダンジョンポイントを増やすんだ?」
「DPはダンジョン内で人やモンスターが死亡もしくは消滅する、またはダンジョンバトルの勝利報酬や特別報酬で獲得できます」
なるほど、どうやってダンジョンに人とかモンスターを呼び込むかが重要になるわけだ。
俺のダンジョンは立地とか大丈夫なんだろうか。
「ダンジョンバトル?」
なんか分からん単語が多く無いか。
魔王は大変なんだな。
「ダンジョンバトルは魔王同士の対決です、お互いのダンジョンを一定時間だけ空間魔法で連結します、ダンジョンバトル期間中はエントリーした魔王と配下以外ダンジョンに侵入出来なくなります、勝利条件はダンジョンコアを破壊することです」
えっ、ダンジョンって罠とか設置して待ち構えるスタンスだよね?、両方芋って勝負にならないんじゃ。
「そのルールだと攻める方が圧倒的に不利じゃないか」
「仰る通り防御を固める方が有利ですので、戦力差が大きく開いた場合しか決着はつきませんし、勝敗が決まらなかったとしてもペナルティ等は無いので大抵はお互い動かずにダンジョンバトルが終了します」
やっぱりそうなんだ。
ダンジョンバトルがあるということは俺の他にも魔王が結構居そうなわけで、そうなると先輩魔王との差が辛いだろうからこのルールは新人にとってはありがたいのかもな。
「大体分かったから今俺がダンジョンコアで何が出来るのか確認したい」
早く球の守りを固めて俺は外行くべ。
「それではハルト様、まず
球に触れるだけで良いんだな。
右足の黒いブーツと靴下を脱ぎ、光る球の上に素足を乗せた。
「ひっ、酷いですハルト様っ、な、何でわざわざ足にしたんですかっ、手で良いじゃないですかぁ~」
おっと。
「足でも良いのかなと思って」
「足でも問題無いですケド…ぐすんっ…」
アホなやり取りをしている間に球の光が青色になった。
青色の光は暖かくなり無数の光る粒子となって球から離れだした。
やがて青色の粒子が台座の隣に集まり、何かの姿を形成していく。
光が止むと台座の隣にはバランスボール位の大きさをした白いハムスターが居た。
「お待たせしましたハルト様っ」
今まで球から聞こえて来ていた女性の様な少年の様な声がハムスターから聞こえてくる。
どういうことだ。
「何君、モンスターだったの?」
フリフリと頭を横に振るハムスター。
「モンスターではございませんよハルト様、ダンジョンコアに触れた際にハルト様の潜在意識をインプットさせて頂きハルト様に合ったお姿で実体化した
なぜか得意気に説明したハムスターはその場でクルリと回って姿をアピールする。
実体化出来るんだね。
「なぜにハムスター」
俺ってそこまでハムスター好きだっけな。
まあ、動物の中では一番好きだったかもしれないが、動物じゃなきゃだめなのかな。
「ハルト様が好みでかつ口のある存在がこちらのお姿だったのですが…」
口のある存在ね、俺が一番好きなのはハンバーガーだからなぁ。
「まぁ仕方ないか」
「大抵は魔王の異性になるはずなのに…ハルト様は少し特殊と言いますか独特な趣向をお持ちみたいですね…」
何をコソコソ言ってるんだこのハムスターは、聞こえて無いとでも思ってるのかな。
「おい、聞こえてるぞ」
「ギクッ…」
そそくさと小さい手を口に当てるハムスター。
いや、遅いよ。
「俺はそういうのあんまり好きじゃないんだ」
陰口の事じゃないから気にするなハムスター。
こういう側近とか旅のお供を選ぶ機会が前世と前々世でよくあったんだよな。
俺はずっと疑問に思っていた。
美少女が多すぎないかと。
しかも美少女強すぎないかと。
もしかすると俺だけが疑問に思っていることなのかもしれないが、明らかに不自然だった。
転生してからというもの、出会う人や旅を共にする人がほぼ全員美少女だったんだからさ。
別に俺だけそうなのではなく、主要人物達の周りもしくはその主要人物そのものが美少女だった。
しかもそのほとんどの美少女が超強い。
異世界を創った存在が美少女を贔屓しているとしか思えない程に主要人物近辺の美少女は超絶スペックだった。
好きな人には最高のシチュエーションだったのかもしれないが、そこまで好きではない俺からしてみれば異常でしかなかった。
美少女は嫌いではないが、好きでもないのだ。
そんな俺だからこそ、実体化する時にハムスターになったんだろうな。
「も、申し訳ございませんハルト様っ」
へこへこ頭を下げるハムスターを俺は手で制す。
「気にしてないから大丈夫だ、それより聞いて無かったがお前に名前ってあるのか?」
球じゃなくなったしハムスターだと呼びにくい。
「?いえ、名前はございませんが」
「このままじゃ呼びにくいから俺が名付けてやろう」
「あ、ありがとうございますハルト様っ」
嬉しそうに目を潤ませるハムスター。
そうかそうか、そんなに嬉しいか。
「よし、お前の名前はタマだ、よろしくなタマ」
嬉しそうだったハムスターの顔がフリーズする。
「え゛っ、変わって無いじゃないですかぁ!」
タマは我がままだな。
「文句言うと球に改名するぞ」
「どっちも一緒ですぅーっ!!」
タマの悲しみを含んだ声は狭いダンジョンによく響いたのだが、俺の胸には届かなかったのだった。
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