#2 早くチュートリアルを始めて下さい
フォン…フォン…
…あれ、何か音が鳴ってないか。
暫く思い出に浸ってご満悦状態が続いた後、周囲の異変に気付いてようやく俺は現実に戻って来れた。
フォン…フォン…
どうやら間接照明の球から音が発生しているみたいだ。
さらにずっと光続けていた球が点滅している。
なんだろう、間接照明が壊れたのかな。
人が気持ち良く悦に入っていたというのにこの間接照明ときたら…と思いつつ、故障個所を確認すべく台座へと近寄る。
「初めましてハルト様」
「え?」
間接照明の球から挨拶が聞こえて来た。
まぁ礼儀正しい間接照明だこと。
膝蹴りで挨拶してきた前世の連中は見習ってくれ。
「間接照明さん初めまして」
点滅の止んだ間接照明に挨拶を返す俺。
地球だったら家具AIに話しかけるヤバイ人間にしか見えないだろうな。
勇者時代でも周りに人が居たら噂になってただろうね。
だが今は違うぞ。
何も気にせず間接照明と絡んでやるのだ。
「ご紹介が遅れまして申し訳ございませんが、私はハルト様のダンジョンコアでございます。間接照明ではございません」
あ、違ったか。
確かに間接照明と言い切る程にオシャレなデザインじゃないし、密閉空間に間接照明だけって変だもんな。
し、知ってたもん。
「ごめん、怒った?」
転生前なら初対面の相手にはもっと丁寧な口調で接しただろうが、今回の人生ではそんなこと気にしない。
「滅相もございません、私はハルト様のダンジョンコアなのですから、謝られることなども不要です」
「そうなんだ」
「ハルト様に仕えハルト様のお仕事をナビゲートすることが私ダンジョンコアの存在意義なのです」
この球、やたらとダンジョンコアアピールするよなぁ。
ダンジョンコアとは?待ちなんだろうが、球の癖に言っても無い俺の名前を知ってるなんて怪しいしそれに生意気だぞ。
絶対触れてやらないのだ。
「なるほど、お仕事頑張ってね」
そう言って俺はダンジョンコアと名乗る球から背を向けて石の壁を調べ始める。
「お、お待ちくださいハルト様っ、まだ何のご説明も済んでおりませんっ」
「頼んで無いからね」
「そんなっ、ぜひ私をお使いくださいっ、ハルト様は先程ご誕生されたばかりでまだご状況を把握されていらっしゃらないではございませんかっ」
必死だなぁ。
まるで捨て猫が段ボールの中から訴えてきてるみたいだ。
だがそれも俺には意地悪を欲しがってるようにしか思えんぞ。
「状況なら分かってるとも、ここに閉じ込められているから脱出すれば良いんでしょ」
「全っ然っ違いまーっすっ!ハルト様はこのダンジョンの魔王なのですから脱出など必要ございませんしっ、それに配下もいらっしゃらないハルト様お1人ではこの遺跡から出る事は出来ませんっ」
あらら、球が怒り出しちゃった。
無生物に怒られるとは妙な感覚だ。
魔王とか配下とか新しい単語が出て来て何のこっちゃだが、なんとなく球の言おうとしていることは分かる。
だけどこれ多分1人で出れる。
「いや、出れるさ」
俺は石壁に向かって右拳を構える。
こんなの右手だけで十分だろう。
「え゛っ、あ、あの、ハルト様?」
あっ、この球、今絶対俺のこと残念に思ったろ。
見てろよ。
ドゴォォォォォォオオッッッ
轟音と共に粉砕された石の粉が舞い視界を覆う。
「え゛えええっ!??」
球の癖に良いリアクションだ。
視界が晴れると、俺の前にあった石壁に巨大な穴が開いていた。
穴は深く続いているみたいだが、最奥に外の光が見える。
満足気に頷く俺。
やはり今回も能力を引き継いで転生出来ているみたいだな。
前世で何故か勇者の能力を引き継げていたからもしかしてと思ったが、今回は闘神の能力がそのまま使えるみたいだ。
今勇者の能力は引き継げているのかな。
気になって"ブレイブ"の力を解放させてみる。
キュィーン
耳鳴りしそうな音を発しながら俺の身体から金色に発光するエネルギーが湧き出る。
よしよし、勇者の能力も使えるみたいだ。
「あわわっ、なっ、何なんですか今の輝きはっ」
球の方が俺に質問しだした。
という事は俺の名前は知っていても転生前の記憶や能力は知らなさそうだな。
「球が知ってどうするよ」
「情報共有することで最適なダンジョン運営のご提案が出来ますっ、あと私は球ではなくハルト様のダンジョンコアですっ」
この球はまた運営だとか訳の分からない単語を出しよって…どれだけ構って欲しいんだ。
まあ、そろそろ話を聞いてあげても良いが、理由が無いんだよね。
俺に仕えてるとか言っているけど球だしさ、出口開けちゃったから脱出出来るし、もうさよならで良い気がする。
「そうか、じゃあ達者でな」
俺は球に背を向けてと穴の中に足を踏み入れ歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って下さーいっ!何処行くんですかーっ!私はハルト様の一部なのですっ
スタタタタッ
俺は猛スピードで穴を引き返し、球の目の前までやって来た。
「それを早く言わんかい」
「ハルト様が説明させてくれなかったじゃないですかぁっ」
長い沈黙が続いた後、ようやく俺はチュートリアルを始めたのだった。
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