モンスターバーガー

@0yen

#1 第四の人生

俺は目覚めた。


頭が少しボーッとする。


悪い目覚めなんて随分久しぶりだ。


目覚めたばかりで少し調子が悪いせいなのか、目から入って来る視覚情報がうるさい。


瞬きしながらゆっくりと立ち上がり周囲を確認する。


ここは灰色の石壁で囲まれた密閉空間だった。


中央には発光している不思議な球を載せた石の台座が見える。


これは間接照明かな、何にせよこんなの今までに見たことがない。


というか、この場所自体全く知らない。


自分が何処に居るのか分からいというのに口元が緩みニヤけずにはいられなかった。


決して頭が壊れてしまった訳じゃない。


こうなった理由に心当たりがあるから期待に胸が膨らんでついニヤけてしまったんだ。


まあ、まずは心当たりが正解かどうか確認しようじゃないか。


すぐさま視線を俺自身の身体に移す。


服は黒で統一されており、装飾されたノースリーブのベストとズボンとブーツを履いている。


ベストの少ない面積では全然隠せていない白い肌と20歳位の程よい筋肉が見える。


やった!全然違うじゃないかっ。


前は浅黒い肌だった。


記憶と全く違う姿だと分かって確信した。


俺は自分で転生出来たんだ。


断じて整形手術とかではない、正真正銘の転生。


初めての試みだったが成功した。


満足気な顔で立ち尽くす。


悦に入る俺。


自分の色濃い経験と記憶がフラッシュバックする──


──俺の名前は高橋陽翔はると、平凡な会社員だった。


定時ダッシュで逃げるように家へ帰っている時、車にはねられて気が付くと俺は知らない人間に生まれ変わっていた。


しかも生まれ変わった先は剣と魔法の異世界、フィクション作品でよく見られた展開が我が身で起こったということだった。


剣と魔法の異世界では能力が高いからと勇者扱いされ、周囲の眼を結構気にするタイプだったその頃の俺はやむなしに善行を積む日々が続いた。


日が進むにつれて頼まれれば断りづらい状況にどんどんなって行き、気付いた頃には悪の親玉らしき魔王の討伐を無意識に快諾してしまっていた程だ。


なんとかギリギリで魔王を討伐したは良いが、善行を積んでしまったが故に女神なる存在に目を付けられ厄介な頼み事をまたもや無意識に快諾してしまった。


やってしまったと後悔している内に俺はまた知らない世界の知らない人間に生まれ変わっていた。


3度目の人生は闘神だった。


武闘術が異常に発達した世界に最初は怯えていたが勇者の能力をある程度引き継げていたので調子良く武術をマスターして強くなり気が付いたら闘神と称えられるようになった。


そこからは勇者の時と同じく皆の期待が籠った眼差しを裏切ることが出来ず、俺は見事なパシリマシーンと化した。


宇宙規模で超人達が悪事を働いていたもんだから俺も宇宙の隅々までパシらされ苦労の日々を過ごしたんだ。


まあ空間移動術を会得してたからサクッと解決出来た事も多かったけども、宇宙規模のパシリなわけで問題は量よ。


数をこなしていくとパシリの内容もエスカレートしだして、気付いたら俺は素手で邪神を倒してた。


倒した邪神が偶然にも転生術を使えたこともあって、もう一度転生することに興味が湧いた。


俺はもう使命だの運命だのでパシリ生活を続けるなんて嫌だった。


今度は誰かの為とかじゃなくて自由に生きたかった。


邪神を倒しても収まらないパシリのかたわら、我武者羅に転生術を研究し、そして遂に今日願いが叶ったわけだ。


今日からの人生が楽しみで仕方が無い。


さあて、これからどうしてくれようかなぁ~。


好き放題に生きると決めた4度目の人生が今始まったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る