第182話 カシオズの市場にて

 その日の昼頃、ソールとアリシアの二人はカシオズの中心街にて開かれているマーケットに足を運んでいた。戦いの疲れを考慮した騎士団がジーフへの出発を先延ばしにしたおかげで、時間が余ったソールが興味本位でやって来たのだった。


「ここがカシオズの市場か。今まで立ち寄ったどの町よりも規模が大きいや」


「そうね。流石は王国最大の都市といったところかしら」


「そうか、アリシアさんは何度か来たことがあるんですよね?」


 慣れた様子のアリシアに、少年は思わず問いかける。


「えぇ。仕事柄、王国のあちこちに行くことが結構あってね。その旅の前にはここに来て色々な物資を調達していたものだわ。ソール君も長旅になるのだから、色々と買っていくと良いわ」


「はい、そうします。ところで」


 と、少年はふと思った疑問を口にすることにした。


「アリシアさんはこれからどうするんですか?」


「……そうね」


 アリシアはその場で足を止めた。


「取り敢えず今言えるのは、私は貴方達とは一緒にジーフへは行かない、という事かしら」


「やっぱり、来ないんですね」


「あら、分かっていたの?」


「えぇ、薄々は」


 少年はやけに落ち着いた態度で答えた。


「実はヴァレンに頼まれてね。カールのせいで滅茶苦茶になった『教会』を立て直すのに力を貸して欲しいってね」


「つまり、ヴァーノさん達と同じ、という事ですか」


「まぁ、二人よりも三人居た方が良いという事ね。それに、テオの事を知って、同じ悲劇を繰り返してはならないと思ったみたいでね。彼らしいと言えば彼らしいけれどね」


「……つまりは、アリシアさんとはこの街でお別れという事ですか」


 少年は呟くように言うと、俯いた。


「折角、やっとこの街でまた会えたのに」


 今にも泣きそうな掠れた声で言葉を絞り出す少年に対し、アリシアは彼の頭を優しく撫でた。


「そんなに落ち込まないで。行かないと言っても、それは『今は』、という話よ。こっちの状況が落ち着いたらきっと、いいえ、必ずまた、ジーフあそこに行くわ」


「本当ですか……!?」


 彼女の言葉に、少年は思わず顔を上げて大きな声を上げた。


「や、約束、約束ですよ!?」


「えぇ、約束」


 アリシアとソールは、今一度誓いを立て、指切りをした。

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