第177話 テオ=トゥールス

「あ、あのっ」


 と、その横でルナが声を発した。


「何かしら、ルナちゃん?」


「あの……、テオ君は、どうして亡くなったの?」


 訊きづらそうにしながらも、少女は勇気を出してアリシアに問いかけた。


「……」


 アリシアは目を閉じ、一拍置いた後、再びその両目を見開いた。


「……マナの欠乏症よ」


「えっ」


 思い掛けないその言葉に一番驚いたのは、ルナよりも幼い少女、コハルだった。


「マナの欠乏って、亡くなることがある、の?」


 コハルが恐る恐る尋ねる。


「どうなのかしら。少なくとも、私はそんなの聞いたこと、無いけど……」


 ウォルが、やはり驚き混じりに答える。


「確かに、マナを過剰に消費してしまえば、体調に大きく影響する。けど、亡くなるまでなんて……」


 ウォルはにわかには信じられない様子で呟いた。


「普通ならまず無いでしょうね」


 と、事情を知るソフィアが言った。


「普通、自分のマナの消耗を感じたらすぐに魔導を使うのを止めるか、周りの人間が止めるでしょうね。でも、そんな普通の事ではない事が、実際に起きてしまった」


 ソフィアはアリシアに視線を送る。


「私は魔法を使えるようにまでなったけど、テオの方は魔導を扱うのにとても苦労したの。『教会』の中でも当時の指導官に厳しく指導されたわ。それでも中々魔導が上達しなかったテオは、無理に無理を重ねていった。日に日に弱っていくテオに、私はもう無暗に魔導を使うのを止めるように言ったわ。だけど、テオは聞き入れてくれなかった。人一倍の努力家だったし、負けず嫌いだったこともあってね。私の忠告も虚しく、テオは身体とマナを酷使し続けた。その結果、遂に限界がやってきて、テオは倒れてしまった」


「まさか、そんな事があったとは……」


『教会』の枢機卿であるヴァレンは、思わずそんな声を漏らした。


「……」


 少しの間、沈黙と静寂が訪れる。


「……だが、おかしいじゃないか」


 と、それを破ったのはヴァーノだった。


「そんな事があったとしたら、『教会』の中で問題にならないはずが無いだろう。オレやウォルみたいな一介の魔導士はともかくとして、ヴァレンさんの耳にも入っていなかったのはおかしいだろう」


「えぇ、だから、揉み消されたのよ」


 ヴァーノの指摘に、アリシアは目を瞑りながら言った。


「一体、誰がそんな事を?」


「貴方達もよく知っている人物」


 アリシアは一拍置き、






「カールよ」


 そう答えたのだった。

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