第174話 恩人との再会

「誰……?」


 ルナが疑問を口にした。いや、ルナだけではない。その場にいた者のほとんどがそのような面持ちで、現れた人物を見ていた。そんな中で、


「あ、あの人……!」


 そう声を発したのはコハルだった。


「シズミの町で助けてくれたお姉さん……?」


「あら、コハルちゃんだったかしら。元気そうでよかったわ」


 その白いローブの女性は、優しい声色で答えた。


「……っ、この声、まさか……!」


 と、それに反応したのはソールだった。女の声を聞いた途端、少年は無意識に一歩ずつ、ゆっくりとその歩を進めていくのだった。


「もしかして、あの人……」


 ルナがそう呟いた。少年の反応、そして何より、目の前の人物の雰囲気から、おおよその見当をつけた。


「あら、ルナちゃん。久しぶりね。こんなところまでよく来てくれたわね」


 と、その女は少女のことを昔から知っているかのような口ぶりでルナに言った。


「あなたもね、ソール君」


 次にその女は少年の名を呼んだ。すると女は被っていたローブの頭部を剥いだ。そうして、その長い銀色の髪が風になびいた。


「やっぱり、そうだ……!」


 露になった姿を確認した少年は、その女の前まで駆けて行った。


「お久しぶりです、アリシアさん!」


 少年はその瞳に涙を湛え、声を震わせながら言った。


「あら、泣き虫なのは相変わらずね」


 対し、アリシアと呼ばれた銀髪の女はフフ、と笑みを溢しながら少年の頭をそっと撫でた。


「あの人、ソールの知り合いなの?」


 コハルがルナに問う。


「ほら、前に話したじゃない。ソールにあの懐中時計をくれた恩人の人。あの人がそうよ」


「ルナも知ってる人?」


「えぇ。とは言っても、直接会うのはこれで三回目くらいなんだけどね」


 ルナは再会を果たした二人に優しく微笑みながら答えた。






「ねぇ、ヴァーノ。あのアリシアって人……」


「あぁ……」


 一方、ウォルとヴァーノは小声で話していた。


「アリシア……。その名を聞いたことがある。かつて『教会』に属していた、『教会』随一の実力を持った魔導士。魔導を極め、それを凌ぐ力、魔法・・を扱えるとされる人物。まさか、それがソールの恩人だったとはな」


 ヴァーノは煙草を口に運びながら呟く。


(だが、ソールの恩人、すなわち、懐中時計の元の持ち主が同一人物だったという事は……。やはり、ソールが使っていた力の数々、あれは……)


 ヴァーノがそのような思考をしている中、少年とその恩人は再会に胸を高鳴らせていた。


「それにしても、私が言うのも何だけれど、あの手紙だけでよくここまで来てくれたわね」


「……やっぱり、あの手紙はアリシアさんが直接持ってきてくれたんですよね?」


「あら、それも気付いてたの?」


 少年は自分の顎に手を添えながら、


「最初はその文章でアリシアさんのものだと分かって、興奮していて見逃してました。けれど、あの手紙、後々考えてみると差出人の名前はおろか、消印も切手すらもなかった。という事は、あの手紙は貴方が持ってきてくれたんじゃないか、と思ったんです」


 と、自らが立てた推論を述べた。


「アリシアさん、僕らがジーフの街を旅立つ前、貴方もあの街に居たんじゃないですか?」


 その問いに、目の前の恩人は一呼吸置くと、


「やっぱりあなたは鋭いわね」


 認めたのだった。


「おい待て」


 と、そこで言葉を挟んだのは、意外にもヴァーノだった。


「だとすると、アンタが今、この街に居るってことは、アンタ、オレ達の旅路をずっと見て来たんじゃないか?」

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