第173話 懺悔と成長
「さて、と。君がソール君だね?」
ヴァレンは次に少年の方へと視線を向けた。
「はい、そうですけれど……」
「そう身構えなくて良い。まずは、君に謝りたいのだよ」
そう言うと、ヴァレンは少年に向かって膝を地につけ、頭を深々と下げた。
「私が居なかった時とは言え、身内が起こした事だ。責任は私にある。本当に申し訳無かった」
「そんな、カールが勝手にやっていた事でしょう?それなら、貴方のせいでは無いんじゃ……」
「いや、それについてなのだが」
と、今度は少年の顔を見つめて、ヴァレンは続ける。
「実は、ヴァーノ君達に時計の回収を命じたのは、そもそも私なのだ」
「えっ」
少年は思わず声を漏らした。
「驚くのも無理は無い。君達はカールが全て主導していたのだと思っていたのだろう。私がギナーサクに発ってから引き継いだのは、現に奴だったからな。だが、元より時計を探そうとしていたのは私だったのだ」
「……」
「君は、私を恨むかね。憎むかね。それとも
そう言われ、少年はただ俯いていた。
「それも無理の無い事だ。君には本当に申し訳ない事をしたのだからな。本来ならば、君達はジーフで平穏に暮らしていたはずだ。此処まで長い旅をしなくとも済んだはずだ。そして何より、君がここまで傷つかずとも済んだはずだったのだからな」
ヴァレンは眼を細め、座り込んだ少年を見つめていた。その瞳には憂いの感情が表れていた。
「確かにそうだったのかもしれませんね」
少年は顔を上げて言った。
「けれど恨むなんて、そんな事はしませんよ」
少年は優しく微笑みを浮かべた。
「何故だね?君は、これまで何度も危険な目に遭ったのだろう。先程だってそうだ。君は、大切なものを失いかけたのだろう。それでも、私を恨まないと言えるのかね!?」
「言えますよ。そして、何度だって言います。僕は、貴方を恨まないし、憎みません」
少年は即答した。予想もしなかった少年の言葉に、ヴァレンは驚きを隠せずにいた。
「どうして……」
「だって、貴方からは悪意が感じられないから」
そこに、近くで馬車が走り出す音がした。騎士団がカールを連れて行った馬車の音だった。少年はその馬車の音のした方へと視線を向けた。
「あの人……カールからは、明確な悪意や野心が感じられた。でも、貴方からはそれが全く感じられない」
「だが、私が命じた事で、結果的に……!」
「そうかもしれません。けれど」
少年は男の言葉を言い終えるよりも前に言った。まるで、もうそんな事など言う必要はないと示すかのように。
「けれど、この旅をしてきて分かったんです。僕達が通って来たこの旅路は無駄じゃなかったって。これまで、色々な事がありました。魔導士に襲われたり、町の領主と対峙したり、魔導士と正面から戦ったこともありました。確かに、それは危険な事だったと思います」
そこまで言うと、少年は過去を振り返り、空を仰いだ。
「でも僕は、不幸になんてなっていない。何も失ってなんていない。寧ろ、この旅の中で色々な人達に会って、話をして、僕は、大きなものを得ることが出来た。この経験は、何にも代えられない、大切なものなんだと思うんです」
そうして少年はヴァレンの顔を見つめる。
「だから、僕は貴方を恨みません」
少年は、屈託のない笑顔を見せた。
「全く君には
フッとヴァレンも笑みを溢した。
「私が時計を回収しようと思ったのは、その力の強大さゆえに、悪しき思想を持つ者の手に渡る事を恐れたからだ。だが、どうやらそれは要らぬ心配だったらしい」
ヴァレンは少年が首から提げていた懐中時計を見ながら言った。
「元より君にはそのような気質は無かったようだし、寧ろそんな者に対して立ち向かう姿を見せてくれた。そして、その時計を持つ上で未熟さが危険だと思っていたが、君はこの旅で成長をし、それに見合った器量を持ち合わせた」
ヴァレンはそこまで言うと、今度は視線を別の方へと向けた。
「どうやら君が思った以上のものを得たようだ。そこに居るんだろう?出てきたらどうだ」
と、ヴァレンの呼び掛けに、木陰から一つの影が現れた。その人物は白いローブを目深に被っていた。
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