第165話 光の魔導

 一方、カシオズ大聖堂の中。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 静けさの中、少年の息の上がった声だけが建物内に響いていた。肩を庇う少年の身体には、至る所に傷が目立っている。


「さて、そろそろ答えは変わったかね?」


 カールの問いに、ソールはそっぽを向いた。


「君はもう少し利口だと思ったんだがな」


 呆れた口調でカールが呟いた。


「……」


 それに対して、ソールの意識は別の方へと向いていた。


(何度も攻撃を浴びてきて、分かった事がある。この人の魔導は、イオナの雷の魔導みたいに柔軟ではない。直線的な動きなんだ。つまり、一度避けてさえしまえば……!)


 そこまで考えに至ると、少年はポケットにしまっていた懐中時計を首に提げた。そして、駆け出すと同時に右手を前方へ翳した。すると、カールを囲むようにして地面から炎の渦が現出した。


「何度やっても無駄な事。まだ分からないのかね?」


 対して、カールも前方へと左手を翳す。直後、空中に幾何学的な模様が浮かび上がり、その中心から閃光がほとばしった。閃光は炎渦を貫き、そのままソールのもとへと飛んで行く。


(来る……。それなら)


 ソールは走る足を止めずに横に跳んだ。そのすぐ後に光線はソールが居た空間を駆け抜けて行った。


(避けられた。いけるか……?)


 少年は緩めたスピードを戻し、再び大男に向かって走る。


「甘いぞ、その考えは」


 しかし、カールは冷静だった。前方に翳していた手を横に払うと、光線が進む方向に別の陣が現出した。光線はその陣に触れると、ソールの居る方向へと進路を変えた。


「……っ、何」


 反応した時には遅かった。光は少年の身体を文字通り光の速さで貫いた。


「がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」


 少年は痛みを堪え切れず、叫びにも似た声を上げながら地を転がった。


「何で、一直線に、だって……」


 戸惑う少年に、


「確かに私の『裁きの光』は直線的なものだが、何も方向を変えられないとは言ってないぞ」


 そう言うと、カールは左手を虚空に翳す。そうして、空間に二つの陣が現れ、それぞれから光が迸った。それらは容赦なく、ソールに向かっていく。


「くっ……!」


 それをすんでのところで少年は身体を転がし、躱す。


「そら、一つしか生み出せないとも言ってないぞ」


(くそ、前提が覆った。一体、どうすれば……?)


 そこで、ソールにある考えが浮かんだ。


(待てよ……。イオナの魔導、雷の魔導。あの力が使えたとしたら、もしかして)


 そう思い、少年は再びカールに向かって手を構える。しかし、






 何も、起こらなかった。


「そんな、どうして……?!」


「どうした、来ないのならこちらから行くぞ」


 そんな事は構い無しに、カールは魔導を行使する。


「くそっ!」


(何故だ……?何故時計が反応しなかった?もしかして、この時計も万能ではないのか?)


 少年はそこまで考えて、再び虚空に向けて手を構えた。


(それなら、使える手札で戦うしかない!)


 その瞳には、まだ闘志が宿っていた。

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