第163話 夜道を往く少女
カシオズの市街地を、暗がりの中、歩く二つの影があった。
「コハルちゃん、大丈夫?」
「ん……。まだ眠くてほわほわするけど、大丈夫よ」
ルナとコハルであった。
(コハルちゃんはまだ起きたばかりで寝ぼけてる。かく言う私だって、そこまでこの街に詳しいわけじゃない)
ルナは、いつも傍に居た少年がしていたように、現状を
(これから、あのログハウス以外に行く
そう思った時だった。考え込む少女にビリリ、と悪寒が走った。
(何、今の感覚……?何か、とても嫌な予感がしたような……?)
「どうかしたの、ルナ?」
それを
「あ、うん。大丈夫……、何でも無いよ」
口ではそう言っても、少女は先程の感覚が気のせいでは無いような気がしてならなかった。
(もしかして、ソールに何かあったのかも。だとしたら、ソールの居る所に行かなくちゃ。でも、コハルちゃんを危険な場所に連れて行く訳にも、かと言って、このまま何処かに置いて行く訳にもいかないよね……)
そうやって少女が考えていた時だった。
「あら、子どもだけでこんな時間に出歩いちゃダメじゃない」
少女達の前方数メートルの所から、声がした。若い女の声だった。
(あれ……?)
ルナには、その声に聞き覚えのある様な気がした。
「あら、貴方達、確か」
声の主も、何かに気付いたようだった。
「あ、そうだ。ソフィアさん!」
女は長い黒髪に黒のドレスを身に
「やっぱりそうよね。ソール君と一緒に居た女の子。確か、ルナちゃんとコハルちゃんだったかしら?」
「えぇ、そうよ」
そこまで話をして、ルナははっとした。
「確か、ソフィアさんって魔導士だったわよね?」
「えぇ、そうだけれど」
その言葉に、ルナは思わず距離を取った。
「それって、『教会』にも繋がりがあるって事よね?」
ルナの警戒心剥き出しの様子を見て何かを悟ったのか、ソフィアは優しい声で、
「ふふ……。何か事情があるようだけれど、安心なさい。私はカシオズ王国直属の魔導士。王国や市民の利益の為に仕事をする事はあるけれども、『教会』の為に行動する事は
そう言ったのだった。
「……本当に?」
「えぇ、本当よ」
(もし、この人が言ってる事が真実だとしたら……)
ルナは少し考えた後、
「じゃあソフィアさん。一つ、お願いをしてもいいかしら?」
そう尋ねた。
「えぇ、良いわよ。私に出来ることであればね」
ソフィアは二つ返事で快諾した。そう言われると、ルナはコハルの手を取り、
「この子の事を、お願い出来るかしら」
「この子を?どうして?」
ソフィアはきょとんとして訊いた。
「説明すると長くなるのだけれど……、『教会』の連中から守って欲しいの」
ルナはソフィアの眼を真っ直ぐに見つめながら言った。
「……なるほど。貴方達にも、余程の理由わけがある訳ね。分かったわ。私に任せなさい」
ソフィアは、その長い黒髪を夜風に靡なびかせながら言った。
「ありがとう、ソフィアさん」
ルナは頭を深く下げながら礼を言った。その後、少女はコハルの方を向くと、膝を曲げ、目線を合わせる。
「コハルちゃん。私、ちょっと行く所があるから、この人と一緒に待っててくれる?」
コハルはその言葉に少し考える素振りをしたが、
「……うん、わかった。待ってるわ」
そう答えた。
「ありがとう。……じゃあ、行ってくるね」
ルナはコハルの頭を手で撫でながらそう言った。そして、ソフィアに一礼した後、夜の道を走って行った。
(カールは……、あの大司教は大聖堂に居るはずだ、ってヴァーノが言ってた。それなら、きっとソールだってそこに居るはず……!)
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