第161話 ログハウスに迫る影

 一方、カシオズの街中から外れた場所にある、一軒のログハウスの中。


「……」


 一人の少女が、薄暗く肌寒い寝室の中で窓の外を眺めていた。


 ソールの幼馴染、ルナである。


「ソール……」


 少女は戦いにおもむいた少年の名を、心配な気持ちで呟く。


 ふと、少女はベッドの方へ目を向けた。


 そこには、コハルがぐっすりと、心地よさそうに寝息を立てながら眠っていた。


「私も眠い……。そろそろいつも寝てる時間だし。でも……」


 少女は再び、窓の方へと視線を向ける。余程、少年の事が心配の様だ。


 そんな時だった。


 ざっ、とログハウスの外の方で何やら人の足音らしき物音がした。






「ヴァーノさん、ウォルさん。失礼します」


 そんな声と共に、コンコンとドアを叩く音がした。


(誰……?)


 少女は怪訝けげんな顔をした。人が訪ねて来るにしては、夜遅かったからである。


 少女は寝室から出て、ドアの方へとそっと近づく。そして、ドアに向かって耳を立てた。


 一定の間隔を空けて、ドアのノックは続いていた。


(もしかして……『教会』の魔導士!?)


「ヴァーノさん、居ないという事は無いですよねぇ」


 ドアを叩く音が、次第に大きくなっていくのが少女には分かった。


(まずいっ)


「コハルちゃん、起きて。……お願いっ」


 大きな声を立てないようにしつつ、ルナは寝室に戻り、コハルを目覚めさせようと呼び掛けた。


「ん……、どうしたの、ルナ?」


 コハルが寝ぼけまなこを擦りながら、絞り出すようにして声を出した。


「魔導士が、追っ手がもうそこまで来てるの。急いで準備して」


 ルナはまだ意識がはっきりとしていないコハルが被っていた布団を剥ぎ、上体を起こそうとする。


「ヴァーノさん、居るんですよね?分かってるんですよ、こっちは」


 外の魔導士は、より一層大きな音を立てながら、ヴァーノの顔を見ようと声を上げる。中に彼が居ないとも知らずに。


「どうしよう……。表のドアからは逃げられない。それなら……」






「開けますよ、良いですか」


 次の瞬間、ガン!という音と共に、ドアが内側に勢いよく開いた。


「ヴァーノさん、ウォルさん」


 魔導士は二人の名を呼ぶ。しかし、当然ながらその二人はその声に答えない。


 先導した魔導士の合図で、他の魔導士達がログハウスの中へと入り込む。


「失礼しますよ」


 各魔導士が、ログハウスの中を隈なく探そうと部屋に散らばる。すると、


「……?」


 魔導士の男が、何かを察知したかのように寝室へと入った。


 そこには、ベッドが二式、あるだけだった。


「……」


 男はふとベッドに手を当てる。


「まだ温かい。遠くには行ってはいないな」


 男は窓の方へ目を向けた。






 その窓は少し開いており、そこから隙間風が部屋の中へと吹き込んでいたのだった。

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