第160話 ウォルの決断

 ヴァーノと分かれてから数分後、ソールとウォルは街の中を疾駆していた。


「ウォルさん。さっきの魔導士達、十人は居たと思うんですけど……。『教会』の魔導士ってどれくらい居るんですか?」


 走りながら、ソールが問う。


「『教会』全体で言うと、ざっと百人以上。でも今は、出払っている魔導士も少なくない。夜中動いているのは、聞いた話からしても多分二、三十人くらいだと思う」


「三十人……。少なくは無い、ですね」


(となると、他の魔導士達が襲ってくる可能性もゼロでは無い、か)


 少年がそう思った時だった。


 二人が角を曲がった時、その前方二〇メートル程の所に、魔導士が数人現れた。


「……っ、ソール、戻るよ」


「はい」


 しかし、気付いてからでは遅かった。


「やはり来たな。隔壁を作れ!」


 その声と共に、数人の魔導士が手を構える。するとソール達を中心にして四方に幾何学模様が浮かび上がった。


「……っ、まずい!」


 ウォルの直感は当たった。


 次の瞬間、陣から巨大な土の壁が現れ、ソール達を取り囲もうとした。


「させない」


 そうしてソールの姿が見えなくなるほど壁が高くなったところで、ウォルは掌から水を現出させ、壁に穴を開けた。彼女はそこから腕を伸ばし、ソールの身体を手前に引き寄せようとした。


 ところが、手前に引く反動で、ウォルの身体が土壁の内側へと振られてしまう。


「……っ、ウォルさん!」


 ソールは先程のウォルがしたように、手を差し伸べ、手前に引き寄せようとした。しかし、それも叶わず、穴が開いていた土壁が見る見る内に修復されていった。結果として、ウォル一人が土壁の中に取り残されてしまったのである。


「……、ソール」


 すかさずウォルは、再び掌から幾何学模様を浮かび上がらせ、水の槍を現出させた。それが土壁に当たると、轟という大きな音と共に、大きな穴が開いた。だが、それはすぐに小さくなっていき、あっという間に閉じてしまった。


「ダメみたい。それなら……。ソール、貴方は、早く此処を離れて」


「何を行ってるんですか、貴方を置いては行けないよ」


 ウォルの提案を、ソールは首を横に振った。


「また次の追っ手が来るかもしれない。そうなったら、貴方一人で戦える?」


「それは……」


 諭す様なウォルの言葉に、少年は逡巡しゅんじゅんした。


「でも、やるしか……」


「ソール。貴方は、マナを温存しておいて。もしもの時の為に。此処は、私が何とかするから」


「でも……!」


 そうこうしている内に、事態は加速する。


「いたぞ、こっちだ!」


 遠くの方から、別の魔導士らしい男の声がした。


「さぁ、早く!」


「……」


 決断をはやされ、少年は少し迷ったが、


「後で必ず合流してください。いいですか、必ずですよ」


 少年は一人、街灯がほんのりと照らす暗がりの中に消えていった。

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