第157話 発つ前に二人は何を思う

 その日の深夜、二十三時頃、ソール、ヴァーノ、ウォルの三人は、ログハウスから出る準備をしていた。


「じゃあ、決着を付けてくるよ、ルナ」


 少年は決意をその瞳にたたえていた。


「うん……」


 対し、少女は何処か不安げな表情だった。


「そう言えば、コハルちゃんは?」


「あぁ、コハルちゃんなら、もう寝ているわ。余程、緊張していたんだろうね」


 ソールが寝室の方へと行き、ベッドを見てみると、もう一人の少女はぐっすりと眠っていた。付いて行くと言われると後々面倒な事になるため、ルナが寝かしつけたのだった。


「ホントだ、寝ているね。……それにしても、コハルちゃんのお世話も大分慣れたらしいね。もうすっかりお姉さんじゃないか」


 おだてられたルナは、若干顔を紅くしながらも平静を装っていた。


「褒めても何も出ないわよ。それに、元々ソールっていう弟みたいなのが居たんだもん。私はもうとっくにお姉さんだったんだからね」


「ふふ、そうかもね」


 少年は思わず笑みを溢した。すると、


「あっ、やっと笑った」


「え?」


「ほら、ソールったら、ずっと真剣な顔っていうか、怖い顔をしてたから」


「あ」


 と、少年はそこでようやく気付いた。


(そうか、そう言えば最近ずっと、笑ってなかったかもな)


「……大丈夫だよ、ルナ」


「え?」


 少女は突然の少年の言葉に疑問を浮かべた。しかし、少年はそんなことは構わない様子で続ける。


「きっと、いや必ず、戻って来るから。だから、待ってて」


 少年の再びの真剣な、しかし何処か穏やかな眼差しに、少女は一拍置いた後、


「うん、わかった。……気を付けてね」


 微笑みで返したのだった。


「話は済んだか?」


 と、タイミングを見計らったかのように、赤髪の男が声を掛けた。


「ヴァーノさん。はい、準備できました」


「そうか。なら、これも持って行くと良い」


 そう言いながら、少年に向かって丸まった何かを放り投げて渡した。少年が広げてみると、それは灰色の外套がいとうのようなものだった。


「これは?」


「申し訳程度だが、これで顔を隠すといい。それに、夜は冷える。着ておけ」


「ありがとうございます」


 少年はすぐさま渡された外套を羽織った。


「よし、それでは行くぞ」


「はい。……じゃあ、行って来ます」


 少年が振り返り様に少女に投げかける。


「うん、気を付けてね」


 もう一度、少女はそう返した。

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