第158話 作戦と違和感
真夜中のカシオズの街は、人通りがほとんど見られず、水を撃ったような静寂が空気を支配していた。その中を、三人ほどの足音が響く。その中の一人、赤髪の男が口を開いた。
「ソール、オマエにも説明をしておこう。これからオレ達は、まず街を駆け抜け、奴の居るであろう大聖堂に辿り着く。そして、奴と対峙する時、オマエが奴の注意を引き付けるんだ」
「僕が、ですか?」
「あぁ。オマエが例の時計を見せるだけで、きっと奴は眼の色を変えてオマエに向かっていくだろう。その隙を突いて、オレとウォルが魔導で奴を制する、という算段だ」
「……なるほど」
少年は少し考える素振りを見せた。
「不安?」
その様子を見て、ウォルが顔を覗いた。
「まぁ無理もない。実質的に、プランというプランは無いのだからな。奴がこちらの手の内を知っている以上、戦いが長引けば長引くほど向こうが有利になっていく。言うなれば、速攻勝負なのだからな」
「でも、向こうとこっちでは、こっちの方が数的には有利じゃない?」
ウォルが疑問を口にした。
「あぁ。だがそれは、奴が一人だった場合……の話だ」
ヴァーノはいつの間にかその手に持っていた煙草を口に咥えようとしていた。
「こっちが三人もいるんだ。向こうが奴一人だという、都合のいいことになるとは限らない。他の魔導士がいる可能性もある。だからこそ、短期決戦になる可能性が高いんだ」
そこまで言った時だった。
「……」
突然、ヴァーノが沈黙をした。
「どうしたの?」
「気付いているか、ソール?」
「……何か違和感がある、ってことですよね?」
ソールとヴァーノは、示し合わせるかのようにお互いに視線を合わせた。
「あぁ、おかしい。いくら夜中とはいえ、まだ『教会』の連中は迫ってきている筈。しかし、街の中には馬車がいるくらいで、通行人はほとんどいない。こういうものなのか、それとも……」
そこで、真っ直ぐ伸びた道の突き当りに差し掛かった。曲がろうとしたその時、その先に数人のローブを被った影が彼らの目に飛び込んできた。
「……っ、戻るぞ!」
一行はすぐに引き返そうとしたが、後方からも数人の影が近づいてくるのだった。
「ダメ、ヴァーノ。完全に挟まれた」
「くそっ、まんまとやられたって訳か!?」
取り囲んだ男の一人が口を開く。『教会』の魔導士の一人だった。
「さて、ヴァーノさんにウォルさん。大人しくそちらの子ども、もとい、『時計』を引き渡してもらいましょうか。それとも、お二人にも同行願いますかな?」
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