第155話 少年少女の約束
「行ったね」
ルナは、ウォルとヴァーノが外に出たのを確認して、声を忍ばせて言った。
「話があるんだよね、ルナ?」
「……」
「いや、さっきから何か言いたげな表情をしてたからさ……」
「ルナ……?」
ルナは一息おくと、若干張り詰めた雰囲気の中、開口した。
「ねぇ、ソール。……カールを止めるってさっき言ったけれど、本当に、できるのかな?」
「……」
その言葉に、ソールは少し考えた。それに気付いてか、ルナは一拍空けてから続けた。
「だって、沢山いる魔導士を束ねている人でしょ?シズミの町でソール達が戦ったあのイオナ?とかいう人だって、とても強かったじゃない。あれよりももっと強いかもしれないでしょ?」
再び、ソールは自分の中でその言葉を嚥下した。確かに、その通りかもしれない、と。彼がかつて同行していた王国騎士団も、リーダーシップがありひときわ強いグランが団長を務めていた。それを踏まえると、『教会』の大司教というのも力量と器量の備わったものと見た方が良いだろう、と。
「うん、そうかもしれない」
ソールは肯定した。
「だったら、無理に戦う必要なんて無いじゃない。とっととこの街から脱出して、私達の帰る場所に帰ればいいじゃない」
ここまで来て、カールという得体が知れず、底の知れない相手に臆してしまっているのか、どうにかしてソールを諭そうとするルナ。しかし、ソールは
「ダメだよ、ルナ」
震えるルナの手を握りながら、優しい声で言った。
「ここで逃げてしまったら、今まで旅をしてきた過程を否定することになる。第一、仮にこのカシオズからみんなで無事に逃げられたとして、時計に執着を見せていたあいつの事だ。諦めずにまた別の追っ手を送って来るに決まってる。どうにかして、時計を奪おうと画策するはずだよ。そうなったらいたちごっこだ。それから僕達は結局『教会』に付きまとわれることになる。僕はそんなの御免だ。だから、ここで決着を付けたいんだ」
と、ソールは自分の今の考えを吐露した。ソールの覚悟と意思を知ったルナは、その言葉を飲み込もうとした。そうして、
「分かった。……じゃあ、約束して」
いつの間にか震えが収まった手をソールの前に差し出した。次に、小指を出しながら、
「付いて行くなんて、今更言わない。けれど、その代わり約束して。必ず、無事に戻ってくるって」
そう言ったのだった。
ルナは理解していた。自分が今更何を言おうと、ソールの確たる意思は揺るがないという事を。そして、今の自分には自分自身を守る術が何もないという事を。ヴァーノ達のように魔導を操る手段も、ソールのように不思議な力を持つ道具も無い。すなわち、ソール達に付いて行くとしても、自分自身が荷物になってしまう。そこまで考えた上で、ルナは……。
それを理解したからこそ、ソールもそれについては何も言わなかった。
「分かったよルナ。約束する。絶対に」
(絶対に、戻ってくるから……)
と、自らの小指を差し出したソールは、ルナと誓いの指切りを交わしたのだった。
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