第154話 ログハウスの外で

 赤い長髪の男が一人、ログハウスの外で立っている。


「……」


 男は、懐から煙草を取り出すと、口に咥えた。そして、自身の右手の人差し指を立てると、煙草の先端に近づけた。すると、男の手の甲に描かれた幾何学模様が赤く光り出し、その直後、指の先端から、火が出て来た。


 そうして煙草に火を付けた男は、煙草から全てを吸い上げるように深く深く吸い込み、


「……ふぅ」


 どんよりとした曇り空をさらに白く染める様に、煙を吐き出した。


「……そこに居るんだろう、ウォル?出てきたらどうだ」


 男がそう言うと、ログハウスの中から青髪の女が一人、ドアを開けて外に出て来た。


「ごめんなさい、ヴァーノ」


「いや、別に謝る必要はないが」


 ヴァーノと呼ばれた男は再び煙草を吸っては、煙を吐き出した。


「あいつらもそこに居るのか?」


「ううん。ソール達は、奥の部屋で話をしてるから。こっちには来ないはず」


「そうか」


「ヴァーノ、さっきの話……」


「あぁ……」


 ヴァーノは一息つくと、


「正直なところ、中々厳しい戦いになるだろうな」


 そう断言した。


「カールの奴を打倒して、拘束するのは確定事項だ。だが、それまでの筋道が問題だな」


 ヴァーノは煙草から口を離し、曇り空を見上げた。


「奴をどうやって倒すか……。何せ、奴の魔導は」


「ヴァーノ」


 ウォルがヴァーノの着ているローブを引っ張った。


「なに、そこまで心配は要らんさ。いざという時にはオレが居る。それに、オマエだって居るじゃないか。オレ達二人が居れば、なんとかなる。これまでだってそうだったろ?」


「うん……」


 ウォルは何処か不安げに俯いた。


「本当に心配性だな、オマエは。……まぁ、今回に限った話ではないか」


「……私、あの人と戦うことが不安じゃないの。この戦いで、ソール達に何か起きるんじゃないかって、それで……」


「分かっている。だが、オレもそうだが、オマエも、アイツらの保護者じゃない。この旅の同行者だ。つまりは、オレ達もアイツらも、同列の立場にいるという事だ。歳はオレ達の方が上だがな。オレ達が心配がっても、きっとアイツらはオレ達と歩幅を合わせて歩んでくる。背伸びをしてでも、オレ達と対等であり続けるだろう。そんなアイツらを今更子ども扱いするっていうのは、アイツらに失礼じゃないかとオレは思うんだ」


「ヴァーノ……」


「安心しろ。オレは別に、アイツらの事を弱いと思っている訳じゃない。寧ろ、これでも評価してるんだ。短い旅路だったが、この旅の中でアイツらは確実に成長してる。ジーフの街で最初に出逢った頃とは比べるまでもなく、な。それをシズミで痛感したよ。アイツらは、もうオレ達が守らなければならないと思っていた時とは、違う。だから、今のオレ達に出来ることは……、アイツらを信じてやる事じゃないか?」


 ヴァーノは、いつしかソールに助けられた時の事を思い出しながら、そう語る。


「特にソールだ。アイツは元から、普通の子どもとは一線を画していたが、この旅で、様々な事を学んでいった。だからこそ、今度の戦いは、アイツの力を多く借りることになるかもしれない」


「それは私も同意見。でも、もしかしたら、それであの子を、傷つけてしまうかもしれない」


「あぁ、そうだな。だから、そうならないように」


 ヴァーノは、いつの間にか口から離した煙草の火を踏んで消しながら、


「そうならないように、これから一つ、策でも立てよう」


 そう提案したのだった。

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