第149話 宿屋を背に

 五時間後、ソールが宿屋『ヤマブキ』に帰って来た。


「ただいま」


 ソールが泊まっている部屋のドアを開ける


「お帰り、ソール。大丈夫だった?怪我とかしてない?」


 ルナが心配そうに尋ねた。


「はは、ルナは心配性だなぁ。大丈夫、何処も怪我はしてないよ」


「そっか、良かった」


 ルナがそっと胸をなでおろした。


「そうだ、収穫があったよ」


 ソールは、今日一日で得た情報をルナとコハルと共有した。


「……そっか。それじゃ、まだ向こうは私達の居場所を掴めていないって訳ね」


「うん、どうやらそうらしい。その点においては安心なんだけど……」


「問題なのは、ヴァーノとウォルの動向、よね」


 ルナが神妙な面持ちでソールと目を合わせた。


「うん。二人も未だ動いてはいないみたい。だけど、いずれは動くと思うんだ」


「その時にどっちに着くか、って事よね?」


「うん。でも、僕は二人を信じたい」


 ソールの言葉にルナは、


「……そうね、信じましょう。あの二人を」


 と、ソールの手を自分の両の手で包むのだった。






「ふわぁぁぁ」


 翌朝、ソールは何かに起こされるかのようにして目が覚めた。


 何やら、外が騒がしい。


「……何だ、一体?」


 部屋の窓から様子を窺うと、そこには、宿屋の女将を数人の魔導士が取り囲んでいる光景が映されていた。






「女将さん、お願いしますよ。中に入れてください」


「何なんだいアンタ達は?教会の連中だか何だか知らないが、商売の邪魔をするってんなら帰っておくれ」


「そんな事を言わずに。我々はただ、子どもを探してるだけなんですよ」


「そうです。その子どもさえ見つかれば、ご迷惑はお掛けしませんから。宿屋の中を検めさせてくださいよ」


「それが迷惑って言ってんだよ。ウチにはお客が沢山いるんだから」


「そこをお願いしてるんじゃあありませんか。中に入れてくださいよ」






「まずいな、これは……。二人とも、起きて!」


 はっとして、ソールがルナとコハルを起こした。


「ううん、何なのソール、そんなに怖い顔をして」


「何なのじゃないよ。魔導士だ。教会の魔導士がすぐそこまで来てる……!」


「えっ!?」


 驚いたルナが、目をぎょっと見開いた。


「本当なの、ソール!?」


「あぁ、だから早く、急いで支度をするんだ」


 ルナとコハルを急かして、急ペースで身支度を済ませると、三人は一階まで駆け下りた。


「あぁ、ソール君達、ちょうどいい所に」


 そう言って声を掛けたのはマキだった。


「表はもう教会の回し者が来てる。だから裏口から逃げて……!私達が時間を稼ぐから」


「分かった、ありがとうマキさん」


「そうだ、ルナちゃん。元気でね」


「マキさん……。えぇ、マキさんも!」


 マキに言われるがままに、三人は宿屋の裏口から外に出た。幸い、裏手には誰も張ってはいなかったらしい。


「さぁ、二人とも行くよっ!」


 なるべく音を立てず、かつ迅速に、ソール達は宿屋から離れて行った。

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