第148話 ルナの役目

「わあっ、ねえルナ、見てみて!雪だよ雪!」


 宿屋の部屋の窓から見える雪に、コハルは興奮して息を荒げていた。


「本物の雪だよ!ほら、早く!」


「本当だ、綺麗だねー」


「うん、本当に綺麗!」


 コハルは、外で振る雪に夢中になって窓へと顔を押し付けている。


「そっか。コハルちゃん、雪は初めて何だっけ?」


「うん、本の物語とか、お話では聞いたことがあるけれど、見るのは初めて!だから凄く嬉しいの!」


「そっか」


(ソールも、一緒の雪を見てるのかな……?)


 と、外に出て行ったソールの事を思いながら、ルナもじっと外の雪を見ていた。


 そんな時だった。


「いらっしゃいませー」


 一階の方から、マキの声がした。


「ごめんねコハルちゃん、私行かなくちゃ」


「うん、行ってらっしゃい」


 コハルは雪に夢中でそれどころではないらしい。


 これは都合が良いと、ルナはコハルを部屋に置いて一階の方へと駆け下りていった。






「いらっしゃいませー」


 宿屋の客が来ると、それに反応してマキとルナは声を上げる。


「おひとり様ですね?どうぞこちらに」


 マキが先導して、客を案内する。


「ご注文がお決まりになりましたらお声かけくださいねー」


 宿屋『ヤマブキ』は、基本的には宿泊の客が多い。しかし、そうした客の一方で食事処として利用する客もまた少なからず居るのだった。


「……あの、お客さん」


食堂を兼ねた一階のスペースにある椅子に腰掛けた年配の客に、ルナが声を掛けた。


「ん、どうかしましたかお嬢さん?」


「外の様子で何か変わった事はありませんでしたか?」


 恐る恐るルナが尋ねる。


「んー、いや、特に無かったよ。普通のいつもの街だったけどね」


「そうですか、ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」


 一礼して、ルナは食堂の奥へと戻る。


 ルナがソールから任せられたことは大きく分けて二つ。一つは、宿屋の臨時の従業員として客の相手をする事。そしてもう一つは、やって来た客から街の情報を聞き出す事だった。


 ただひたすらに隠れているだけでは次の行動に繋がらない。それなら、隠れ家にしているこの宿で、来る客相手に情報を得ることが現状彼女達に出来る最善の行動だ、とソールは思ったからこそ、少女に頼んだのだった。


(せっかくソールに任されたんだ。仕事はきちんとしないとね)


 ルナは拳を強く握り締め、気合を入れた。


「ほらルナちゃん、次は向こうのお客さんよ。出来るかしら?」


 マキが口元を綻ばせながら尋ねる。


「もちろん、任せて!」


 ルナは腕まくりをして、次の客の元へと向かっていった。

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