第147話 しんしんと降り積もる思い
「今帰った」
ヴァーノが、民家のような建物の戸を二回ノックして言った。そのまま、中に入ると青髪の女が一人、彼の帰りを待っていた。
「どうだウォル、変わりは無いか?」
「お帰り、ヴァーノ。ううん、こっちは何も変わらないよ」
「そうか」
ヴァーノは落胆した様子で溜息を吐きながら、煙草を取り出して火を付けた。
「そっちはどうだったの?」
ウォルがヴァーノの顔を覗き込んで尋ねる。
「あぁ。……収穫はあった、かな」
ヴァーノが煙草の煙を吐き出しながら、
「教会周辺の様子を見に行ったが、どうやら教会は、ソール達の同行を未だ掴めずにいるらしい。捜索範囲を広げてはいるが、まだ猶予はあるようだ」
「そっか、良かった。取り敢えず一先ずは安心って所かしらね」
ウォルがそっと胸をなでおろした。
「あぁ。一時は心配したが、ちゃんと周囲の目を盗んで潜んでいるようだな。そこは感心、だが」
ヴァーノは自分が吐いた煙を仰ぎ見た。
「このまま手をこまねいていたら、いずれ教会の連中が察知して見つかってしまう可能性が高いだろう。こちらと向こうじゃ数が違うからな」
「そう、ね」
ウォルが腕を組みなおしながら言った。
「だからこそ、私達が早く合流して、ソール達の力になってあげないと……!」
「落ち着け」
ヴァーノは熱くなったウォルを諭した。
「確かにそうするのが手っ取り早いが、今は俺達も教会の連中に目を付けられてる。下手に動いても勘付かれて取り囲まれてしまえば、そこで終わりだ」
「それは、そうだけれど……。でも」
「今は耐えるんだ。その時が来るまで。……大丈夫だ。そう遠くない時に、必ずチャンスは来る」
「……分かったわ、ヴァーノ」
(そうだ。その時は必ず来る。だから、それまでは何とかして耐えてくれ、ソール)
ヴァーノは煙草を咥えながら、外に再び出て行った。
すると、遠くの方でこちらの様子を窺う人影が幾つか見えていた。
(それまでは、じっと策を練ろうじゃないか)
彼は、ふうっと煙草の煙を口から吐き出した。その煙の行き先を、じっと見つめる。
そんな彼の頬に、雨ではない冷たい粒が、ふわりと落ちて来たのだった。
「雪、か」
まるで彼らの行く末が冷たい道であるという事を示すかのように、深々と雪は降り始めた。
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