第146話 魔導士の会話

 宿屋を出たソールが真っ先に向かったのは、魔導士達の総本山、カシオズ教会の近くだった。


「……」


 ソールは周りに人が居ないか警戒をしながら、教会へと近づいて行った。


 そもそも、自分から危険な目に遭う必要性が何処にあるのか、と感じるかもしれないが、ソールにはある考えがあった。


(街を行き交う人達の話を聞くんじゃ効率が悪い。だったらいっそ、教会に近づいて魔導士達から直接情報を聞き出せたらと思ったんだけど……。そう簡単にいかない、か?)


 その時だった。


「おい、そっちはどうだ?」


 教会の敷地内から、男の声がした。


「いや、やっぱりこの近くには居そうにないな」


 もう一人男が居るのか、別の声が飛び交う。


 ソールは様子を見ようと近づき、茂みに隠れて伺うことにした。


 ソールの視界には、男が二人。建物を背にして、寄りかかって話をしていた。


「それにしても、あの子どもたち何処に行ったんだろうな。昨日の晩、教会の魔導士十数人が出動して行ってから暫く経つが、一向に見つかる気配が無いらしいじゃないか」


「そうだな。もうここら辺には居ないんじゃないかって、捜索範囲を街中に広めたらしいが、上手く行っていないみたいだし。ひょっとして、もうこの街には居ないんじゃないか?」


(僕らの話をしている。……どうやら、まだ僕らの居場所を探すのに手こずっているらしい)


 ソールは息を潜めて、男達の話に耳を傾ける。


「その内、俺達も徴集されたりしてな」


「嫌だよ、面倒臭い。大体、もしも呼ばれるとしたらヴァーノさん達だろ」


(ヴァーノさん達……?)


「あぁ、あの子どもと旅をしてたんだろ?だったら、ある程度の行動パターンも読めるわな」


「そうそう。それにウォルさん。あの人、根は優しいからアレだが、昔は『冷徹の魔女』って呼ばれるくらいの実力持ってたらしいじゃないか。そんな人が相手じゃあ、子どもも一溜りもないだろうな」


「だな。幾ら一時は旅の仲間だったって言っても、もう教会に戻って来たんだ。二人とももう子どもなんて庇いはしないだろうな。何て言ったって、あの大司教が居るんだし」


「そうそう。あの二人も大司教に楯突くなんてこたぁしないだろうからな」


「違いない。なんでも、イーユの町の実権を握る為に魔導士もどきを送ってたらしいじゃないか。まぁ、それは失敗に終わったみたいだけど、あの人の考える事は本当に恐ろしいぜ。こっちに付いてて正解だよな」


「あぁ。……なぁ、それに聞いたか?例の子どもにやられてしくじったらしいが、ジーフの街に魔導士を送り込んで偵察に行かせたり、あのイオナさんにシズミの町でルーン取引をさせてたらしいじゃないか。全く、底が知れねぇよあの人は」


 ハハハ、と笑いを交えながら語り合う二人の男を、ソールは物陰からじっと見ていた。


(なんてことだ、あの大司教が一連の騒動の首謀者だったなんて。くそ、最初に会った時から何かとてつもない雰囲気は感じていたけど……。いや、それよりも今は、ヴァーノさんとウォルさん……あの二人とも敵対しなければならない、そんな状況か。……最悪だな)


と、ソールが肩を落としている時だった。






「おい、そこの!そんなところで何をしている?」


 突如として、別の方向から男の声がした。


 ソールははっとしたが、それはすぐに早とちりという事に気付いた。


「……」


 ソールとそう距離の離れていない物陰から姿を現したのは、赤い長髪の、ソールもよく知る人物だった。


「これはヴァーノさんでしたか。失礼しました」


(ヴァーノさん……?)


 ソールはその様子を、茂みからそっと覗いていた。


「……いや、いい」


「すみません。処で、こんな場所で一体何を?」


「何でもない。それより、ソールは見つかったのか?」


「いえ、まだ。他の者も捜索を続けているのですが、未だ発見は出来ておりません」


「そうか」


 と、用が済んだのか、ヴァーノが何処かへ向かおうとした時だった。


「お待ちください、ヴァーノさん。勝手に出歩かれては困ります。一応、貴方方も観察対象なんですから」


「あぁ、済まない」


 ヴァーノは一礼すると、何処かへと歩いて行ってしまった。


「……」


 ソールは、誰も居なくなったところで茂みから出て立ち上がった。


「ヴァーノさんは、ひょっとして……」


 と、ソールはある仮説を己の中で立てたが、


「いや、今は目の前の事をやるだけだ」


 踵を返し、次の目的地へと走って行くのだった。

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