第145話 二人の朝

 夜が明け、カシオズの街に朝日が差し込んだ。


「ふぅぅ、はぁぁぁ」


 ルナは目覚めると、眠気を飛ばすために身体を伸ばした。


「ほぅら、朝だよ、起きて」


 彼女はそう言うと、自分が眠っていたベッドの布団を捲り上げる。すると、布団の中で丸まっていたコハルの姿が露になった。


「うぅん、もう少しにぇかせて……」


 寝ぼけているのか、言葉の端々がはっきりとしない少女であった。


「もう、仕方ないなぁ」


 コハルの様子に、ルナは溜息を吐きながらも窓を開けて、


「ほら、もう外はこんなにも明るいんだよ。起きないとダメだよ。ねぇ、ソール?」


と、少年にも同意を求めようとする。しかし、彼の姿は部屋の何処にも無かった。


「あれ、ソール?……どこ行ったのかしら?」


 部屋の外に出て、少年を探そうとする。


 自分達の部屋がある三階から一階まで降りると、案外、簡単に少年は見つかった。


 食堂を兼ねている一階のスペースまで来ると、ソールが朝食を摂っているのが分かった。


「あ、居たソール。……ひょっとして、もう出掛けるの?」


「あぁ、ルナ。おはよう。……うん、早くに行動した方が良いと思ってね。二人には悪いと思って、本当は黙って出て行こうと思ったんだけど」


「そっか。……分かった、気を付けてね、ソール」


「うん、ありがとう。じゃあ、行って来ます」


 そう言うと、ソールは宿屋の外へと出て行った。


「……行っちゃった」


「でも、また帰って来るのよね?」


 いつの間にか横に居たマキが、ルナに声を掛けた。


「うわっ!……一体、何時からそこに?」


「まぁいいじゃない。それにしても、貴方達は何をしようとしてるのかしら?只事ではない雰囲気だったけれど?」


 マキがルナに探りを入れようとしていた。


「……話すと長くなります。それに、多分、言っても分からないと思うから、大切な場所へ帰るためにやらなくちゃいけない事がある、とだけ言っておくわ」


 あやふやな答えに、マキは、


「ふーん、そっか。それなら、頑張らないとね」


「……何も聞かないの?」


「だって、言っても分からないような複雑な事情を抱えているんでしょう?それに、貴方達が悪い子なんかじゃないって事は、昨日の様子からも分かってるつもりだから。私に出来ることは、信じてあげる事くらいだしね」


「……ありがと」


「いいえ」


 少しだけ、ルナはマキとの心の距離が縮まったような気がしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る