第143話 宿屋での問答

「此処が貴方達の部屋ね」


 ソール達は、案内された部屋に入る。中は建物の外装で予想していたよりも広い作りになっていて、子ども三人が宿泊するには十分な広さであった。


「それじゃ、私は戻るけど、何かあったら遠慮なく呼んでね」


 と、マキは部屋から自室へと戻って行った。


「ありがとう、マキさん」


「それで、今夜の寝床と隠れ家は確保した訳だけれど」


 ルナが切り出す。


「で、これからどうする、ソール?」


「そうだね……」


 そのことに関しては、ソールにはある考えがあったが、


「何にしても、今僕らの傍にはあの二人が居ないんだ。これまでみたいに、ヴァーノさんが指揮をしてくれるでも、ウォルさんが支えてくれるでもない。僕らで切り拓かなくちゃならない」


 そう。今のソール達の傍には、旅の苦楽を共にしたヴァーノもウォルも居ない。これからの行動をどう取るにしても、これまでの旅の様にはいかないという事を、ソールは身に染みて感じていた。


「ともあれ、まずは情報から集めていかないとね。いつまで経っても後手に回ってるようじゃ、アイツらに良いようにやられるだけだから」


「アイツらって、教会の連中?」


「うん。まだ時計をこっちが持ってるって分かったら、きっと目の色を変えてまた襲ってくるよ。だから」


と、ソールはルナとコハルを手で引き寄せて、


「二人には、此処で待っていて欲しいんだ」


と囁いた。


「え、どうして?」


 コハルがキョトンとした顔で尋ねる。


「流石に子ども三人纏まっての行動は目立つ。そうなったら、何処にいるか分からない教会の魔導士が何処からともなく現れて、襲ってくる。そんな時の対処が難しくなるから、まずは僕一人での行動にした方が良いと思うんだ」


「……」


 ルナは静かに聞いていたが、


「また、ソール一人に危ないことをさせなきゃいけないの?」


「え?」


「シズミの町だってそうだった!強い魔導士相手に、ヴァーノとウォル二人と一緒になって挑んで。私達は何も出来なかった。今回もそうだなんて、そんなの、嫌だよ」


「ルナ……」


 ソールは、これまで旅を続けて初めて、少女が吐露した心情を汲み取った。恐らく、シズミの町以前にも戦闘は幾つかあったが、その度に彼女は、心を痛めていたのだろう。そう思うと、少年は少女達をただ置いては置けないと思うようになったのだった。


「分かったよ、ルナ。それじゃ、二人に頼みたいことがあるんだ。やってくれるかい?」


 ソールがそう言うと、ルナは泣きそうになりながらもコクリと頷いた。

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