第142話 逃避の先に
夜闇の中、カシオズの街の中を走る影があった。
ソール、ルナ、そしてコハルであった。
「さて、これからどうしたものか……」
ソールは悩んでいた。教会から脱出したは良いものの、その後どうするかについては当てもなかった。
「取り敢えず、何処か隠れられる場所を探さないと」
ルナが尤もな事を言った。
「そうだね、何処か寝床にもなって、身を隠せられる場所、か」
と、ソールはある建物を目にして、足を止めた。
「どうしたの、ソール?」
「アレ」
と、ソールは建物を指差す。ソールが指差した方向へ目をやると、そこには『宿屋』と書かれた看板があった。
「宿屋、ね。確かに、休むにはもってこいの場所だけど」
「取り敢えず、入ってみよう」
三人はとにかく宿屋の中に入る事にした。
「いらっしゃい。あれ、こんな時間に子どものお客なんて、珍しいこともあるもんだね」
三人が入ると、そんな事を言う女将が出迎えた。
(そう言えば、前にも似たような事があったっけなぁ……)
ソールは懐かしみながらも、
「あの、三人泊まりたいんですけれど……」
女将に交渉しようとした。
「はい、三人ね。……ええと確かちょうど一部屋空いてたはずだから。マキー?」
と、呼び出されたのは、ソール達と同い年くらいの少女だった。
「どうしたの、おばさん?」
「あぁ、マキ。この子達が今夜泊まりたいって言うから、空き部屋に案内してあげて」
「はーい」
マキと呼ばれた少女は笑顔で答えた。
そんな中、ソールはある違和感に気付く。
(何だ、何かが引っ掛かる)
それは、かつてジーフの街でした約束が絡んでいた。
(マキと言う名前の女の子、そして、あの顔……もしかしたら)
「あの、マキさん」
「はい、何ですか?」
「ひょっとして、アンナさんというお姉さん、いらっしゃらないですか?」
するとマキは驚いた表情で、
「どうして知ってるんですか!?」
「やっぱりそうなんだ。道理で」
(顔も似ている訳だ)
「実は僕達、ジーフの街からやって来たんです。そこで、アンナさんという宿屋のお姉さんに会って」
「……」
マキは、ソールの話をじっと聴いていた。
「……という訳で、もしマキさんに会ったらよろしく伝えて欲しいって言われていたんです」
「……そっか。お姉ちゃん、元気で暮らしているんだ……」
マキは、涙を溢しながら、
「じゃあ、ジーフの街に帰ったら伝えてくれますか?私は元気でやってますって」
「……はい、伝えます。必ず」
(そうだ、僕達には帰る場所がある)
ソールはぐっと拳を握り締め、決意を新たにする。
(必ず、あの場所に帰るんだ)
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