第141話 真夜中の脱出

 その日の晩。夜の闇に蠢く影が三つあった。


 ソールとルナそしてコハルである。


 三人は部屋を出て、建物の外へ通ずる通路を忍び足で歩いていた。


「どう、外の様子は?」


 ルナが外の様子をソールに尋ねる。


「ちょっと待って」


 と、ソールは建物の外の様子を窓から伺った。


 窓の外には、建物を見張る見回り番をしている魔導士が一人、辺りを警戒しながら巡回しているのが見えた。


「外には人が一人だけ、か。……今ならもしかして、行けるかもしれない」


 と、ソールはある策を頭の中で浮かべていた。


「何か妙案がありそうな顔ね、ソール」


「うん、まぁね。でもそれには、コハルちゃんの力が必要なんだ」


「へ?」


 コハルは目を丸くした。






「ふあああああ。全く、何で俺がこんな事を」


 見張り番の男は、欠伸をしながら巡回を続けていた。


「どうせあのガキどもの事だ。何にも出来ずに大人しく寝てるって。それなのにこんな事しろだなんて、大司教は買い被りすぎなんだよアイツ等の事」


 とは言いつつも、男は巡回をしている辺り、あながち不真面目という訳では無いらしい。


「……ん、何だ?」


 と、男の視界の端で、何かが動いたような気がした。


「何か灯りみたいなもんが見えた気がしたが……」


 思わず、男はその方向へと走って行った。しかし、そこには何も無かった。


「……気のせいか」


 男が巡回の順路に戻ろうとしたその時だった。


 ゆらゆらと、男の目の前を何かが通過した。


「……ッ!何だ!?」


 男は左右を交互に見る。しかし、やはりそこには何も無かった。


「……何だってんだよ、一体?」


 と、男が振り向いたその時だった。


 今度こそ、ゆらゆらと揺らめく火の玉が二、三個、宙に浮いているのが男には見えたのだった。


「うおおおおおああああああああ!?」


 男は突然の事に驚きを隠せなかった。


「何だ何だ何だってんだよ!?」


 男は腰から崩れ落ち、へっぴり腰になりながらも誰かを呼ぼうと動こうとする。


 しかし、火の玉は待ってはくれない。


 火の玉はその数を増し、男の方へと襲い掛かる。


「うおああああああああああああああ!?」


 火の玉は男の周りに集まると、その一つ一つがぐるぐると男の周りを回り始めた。


「……っ」


 男は、あまりの衝撃に気を失ってしまった。








「どうやら、上手くいったみたいね」


 建物の中から、ルナが外の様子を見ていた。


「上手くいって良かった」


 コハルがルナとソールにピースサインをしながらはにかんだ。


「……よし、他の人も居ないみたいだし、この隙に行こう!」


 そうして、三人は建物から外に出て行ったのだった。

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