第139話 教会の大司教

「あの人が大司教……」


「あぁ、詰まるところ、教会魔導士達のお偉方という訳だ」


 ヴァーノにそう言われて、身構えるソール。それに対して、


「おぉ、ヴァーノ君にウォル君。よくぞ戻って来たねぇ」


 と、微笑みながら大司教と呼ばれた白髪の男は出迎えた。


「……え?」


 思わず、ソールはきょとんとした表情をした。


「どうだった、旅の感想は?長く辛いものだっただろうに。ご苦労さん」


「……別に、どうってことは無いですよ。ウォルも居てくれたんで」


「……」


 ウォルがコクリと一礼した。


「そうかそうか、それは良かった。君達は教会の魔導士……言うなれば、私の大切な同胞だからねぇ」


 ハハハ、と大司教は豪快に笑った。


「それで、君がソール君だったかな?」


「は、はい」


「そうか、いやぁよく来てくれたねぇ。ありがとう」


(よく来てくれたって、あのクロエとかいう人を使ってここまで連れて来させたのは自分だろうに)


 と、ソールは胸の中ではそう思いながらも、


「ところで、僕達を呼んだ理由って何なんですか?」


 飽くまでも冷静に、ソールは尋ねた。


「んん?そうだねぇ……それじゃあ、手短に言おうか」


 大司教は一拍空けてから宣言した。


「君が持っている懐中時計を、譲ってはくれないだろうか?」


「……僕の時計、ですか」


 ソールはその言葉に驚きもしなかった。


「君はやけに冷静だねぇ。流石は時計の所持者とも言うべきか」


「……いえ、この手の事は、もう沢山経験しましたからね」


 ソールは過去の出来事に思いを馳せながら言った。


「それで、君の答えは?」


 大司教は、不気味なほど穏やかな微笑みをその顔に湛えながら訊く。


「……嫌だ、と言ったら?」


「……そうか、残念だが」


 大司教がそう言った途端、隅の方に居た魔導士達が、一斉にソール達を取り囲んだ。


「ここで君達には、消えてもらわねばならなくなる」


 大司教がそう言うと、周りで控えていた魔導士達が構えた。


「くっ……やはりそう来るか」


 ソールは予想していた事とはいえ歯噛みする。


「お姉ちゃん……」


「コハルちゃん、大丈夫」


 ソールのすぐ後ろでは、コハルとルナが抱き合っていた。


「……」


「ヴァーノ……」


 一方、ヴァーノとウォルは静かに周りの様子を窺っていた。


「さぁ、どうするかね?ソール君」


 答えを再度迫って来る大司教。


「……」


 暫しの沈黙の末、ソールの出した答えは……、






「……分かりました。お渡しします」

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