第138話 カシオズ大聖堂

「此処まで来れば、奴も追っては来れないだろうよ」


 ヴァーノ率いる一行は、追ってから隠れるようにしてカシオズの街の裏通りに居た。


「一体、何者だったんですかね、あの人」


 ソールが疑問を口にする。


「さあな。……ただ、いきなり襲撃はされなかったにしても、いずれは邂逅する相手だっただろうし、警戒するに越したことは無いだろうよ」


 ヴァーノは再び煙草に火を付けると、口元まで持って行った。


「さて、気を取り直して出発するか」


 その時だった。


「お久しぶりです。ヴァーノさん」


 と、誰かの聞き慣れない声がした。その声のした方向に一同が振り向くと、そこには紺色の外套を纏った灰色髪の少年が立っていた。


「オマエは……クロエ!」


「知ってるの、ヴァーノ?」


 ルナが訊いた。


「あぁ、教会の魔導士で、良く面倒を見てやったものだ。……今は確か、大司教の側近だったか」


「あぁ、覚えていてくれて嬉しいです」


 クロエと呼ばれた少年は、頬に手をやりながらそう言った。


「それで、オレ達に何の用だ?」


「もう、ヴァーノさんったら、薄々分かっているでしょうに」


 クロエは両腕を翼のように広げると、


「迎えに来ましたよ皆さん。我らが大司教の命によって、ね」


 と、宣告したのだった。


「……!」


 ふとヴァーノ達が気が付くと、周りには十数人の魔導士が、彼らを取り囲んでいた。


「何だかこの人達、怖いよ」


「大丈夫、お姉ちゃんが付いているから」


 怖がるコハルを、ルナは懸命に元気付けようとする。


 しかし、そんな彼女の身体も若干の恐怖に震えていた。


 それに気付くソールは、この場で懐中時計の力を使って切り抜けようとも考えたが、相手の手数が分からない以上、迂闊に行動するのは得策ではないと考えた。そうして彼は、ヴァーノの答えを待つことにした。


「……どうやら、選択肢は無さそうだな」


「理解が早くて助かります。ささ、どうぞこちらへ」


 そう言われて、されるがまま、ソール達は何処かへと連れて行かれるのだった。






「さぁどうぞ、こちらです」


 一行が通されたのは、古い大聖堂だった。しかし、古いと言っても、その外観は経年劣化を感じさせない程輝きを帯びており、内装も荘厳なもので、とても建ってから百数年も経過しているとは思えないくらいの立派なものであった。


「此処は?」


 コハルが尋ねる。


「此処はカシオズ大聖堂。つまり、オレ達魔導士にとっての本拠地という訳だ」


「此処が、本拠地……」


 その言葉を聞き、ソールは再度大聖堂内をじっと見まわす。


「さぁ、皆さんご注目ください。大司教のお目見えです」


 と、クロエの指し示す方向に、一人の男が立っていた。

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