第136話 疾駆する列車の中で
ソール達は、疾駆する蒸気機関車の客席に座っていた。
「それで、本当に良かったのか、ソール?」
ヴァーノがソールに向けて質問を投げる。
「あのミーナとかいう娘も、オマエに何か言いたかったんじゃ無いのかねぇ」
「……良いんです、ヴァーノさん」
ソールはヴァーノの眼を力無き眼で見つめる。
「僕に出来たのは、ソフィアさんに頼む事だけだったから……」
「そうか」
ヴァーノはいつものように煙草を取り出し、火を付けようとしたが、
「おっと、車内は禁煙だったな」
と、煙草を懐に引っ込めた。
「ところで、どうして蒸気機関車なの?」
そんなヴァーノに、ルナが問いかける。
「早くカシオズに着くのは良いけれど、そんなに急ぐ必要は無いんじゃない?ほら、今まで通り歩いて旅をするとか」
「いや、ここからは列車で正解だ」
「どうして?」
「戦いに備える為だ」
ヴァーノは短く答えた。
「前々から思っていたが、今の『教会』には不審な点が多い。それに、イオナさんの件もある。カシオズに着いてからすぐに他の魔導士との戦闘になるという可能性だってある。だったら、出来る限り体力とマナを温存して置いた方が賢明だろうよ」
「なるほどね」
「っておい、聞いているんだろうな?」
「あぁ、ごめんなさい。列車って久し振りだからつい、ね」
と、ルナは走行する蒸気機関車の窓の外に広がる景色を堪能していたのだった。
「すごーい、こんなに速く走れるんだー」
コハルも、生まれて初めての列車に興奮を抑えきれずに窓の外の景色を見つめていた。
「全く、遊びに行くんじゃないんだぞ」
はぁ、とヴァーノは溜め息を吐いた。
「ウォルさん、体調の方はどうですか?」
ソールが尋ねる。
「ありがとう、ソール君。でも大丈夫よ。この通り、怪我の治療もしてあるし、問題無いわ」
と、ウォルは腕に巻き付けた包帯を見せながら言った。
「そう言えば、列車に乗る前に町の出店で何か買ってたみたいだったけど、何だったの?」
ウォルがヴァーノに訊いた。
「あぁ、それは『これ』を買ってたのさ」
と、ヴァーノは懐から紙袋を一つ取り出した。
「それは?」
ウォルが興味を示す。
「これはな……ソール、ちょっと来てくれないか?」
「……?」
ソールが怪訝な顔をした。
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