第135話 ミーナの答え

 ソール達が魔導士イオナと戦闘を繰り広げた五日後、シズミの町を歩いていたのは、一人の少女だった。


「こんにちは」


 と、その少女に声を掛ける黒ドレスの女。その名はソフィア。


「久しぶりね、ミーナちゃん」


 ミーナと呼ばれた少女は、少しの間沈黙してから、


「……何の用かしら?あの事件なら解決したって、その日の内にソールから聞いたけれど」


 と、返した。どうやら、ソフィアの事を少しばかり警戒しているらしい。


「そんな身構えないで。あの事件の時、話を無理やり聞こうとしたのは悪かったわ。でも、今日はその件じゃないの」


「だったら何の……?」


 ミーナは疑問の声を発した。


「貴方達、日々の暮らしに困っているわよね?」


「……!」


「その日その日を過ごす場所も、帰る場所もままならない生活……そんな毎日を過ごしているんじゃないかしら?」


「……何が言いたいの?」


 ミーナは怪訝な表情でソフィアに尋ねる。


「ズバリ言うわ。私達の管理下に入るつもりは無い?」


「どういう意味?」


「私は王宮の用人なの。詰まるところ、それなりの権限は持っているという訳。その力を使って、貴方達身寄りの無い子どもを、施設に入れるように手筈を整える、という事よ」


「……」


 ミーナは少し考えるそぶりを見せる。


「今に比べては多少自由は無くなるかもしれないけれど、安定した生活は保障するわ」


「貴方、目的は何?」


「目的?」


「そうよ、目的よ。王宮の用人って、そんな大層な身分の人が、私達みたいな貧民に対して手厚い対応をする目的は何かって聞いているの」


 するとソフィアは溜息を吐き、


「別に、目的なんて無いわよ。ただ、私は頼まれたまま行動をしているだけだもの」


 と、何処か遠い目をして言った。


「頼まれた、って誰に?」


「貴方も知っている人よ。……ソール君にね」


「ソール?何で……」


「さぁ?でも、私を動かす熱量は確かに感じたわね。……そう言えば、今日旅に戻るって話だったかしら」


「……!」


 ソフィアのその言葉を聞くや否や、ミーナは駆け出した。その時、カシオズ行の列車が、遠くでボウウウウウウウウウウッ!と、蒸気の音を立てて発車したのがミーナには見えた。


「……っ」


 駆け足を止めて、ミーナは蒸気列車が通って行くのをただ見ていた。


「ソール……」


 黄昏るミーナの傍に、ソフィアが歩み寄る。


「……さっきの話だけれど」


 振り返ったミーナは、


「……よろしく、お願いするわ」


 と、何処か清々しい表情で言ったのだった。

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