第134話 一つの戦いの終焉

「……終わった、の?」


 息を切らしながら、ソールはイオナの元へと歩み寄る。


 イオナは炎の渦に焼かれ、気を失っていた。


「あぁ。俺達はやった。あのイオナさんに勝ったんだ」


 ヴァーノが煙草に火を付けながら言った。


(それにしても)


 ヴァーノはソールを見つめながら思う。


(すっかり魔導士相手にも引けを取らない実力を持つなんてな。コイツは、旅の中でしっかり成長しているのが今日はっきりと分かった)


「……?ヴァーノさん、どうしたんですか、口元緩ませて」


「……っ、何でもない」


 ヴァーノは咄嗟に誤魔化した。


「……後は、イオナさんをどうするか、だが」


「それは私に任せてもらえるかしら?」


 と、何処からともなく黒ドレスの女がソール達の前に現れた。


「誰だアンタは?」


「……ソフィアさん」


 女の名前を知るソールに、ヴァーノは視線をやった。


「えぇ。覚えていてくれてありがとうね。ソール君」


「貴方は一体、何者何ですか?」


 そう訊かれて、ソフィアは長い髪を手で払いながら、


「私は王宮魔導士。つまり、ヴァーノ君。貴方と同じ魔導士よ」


「王宮魔導士、だと?」


「ヴァーノさん、知ってるんですか?」


 聞き慣れない言葉に、ソールは疑問の声を発する。


「俺達みたいな教会に属する魔導士ではなく、王宮直属の魔導士……簡単に言えば、国王から直接雇われている魔導士って事だ」


「王様直属の……」


 その言葉を、ソールは驚きながらも嚥下する。


「ま、そう言う事ね」


「だが、その王宮魔導士さんがどうしてこんな所に?」


 ヴァーノは当然の疑問を発した。


「私達王宮の魔導士は基本的には国王の命により、物事を遂行するの。私の今回の任務は、ルーン密売の犯人を突き止める事よ。そして、その犯人をカシオズの街に連れ帰り、相応の処罰を浴びせる事」


 ソフィアは霧が晴れて町に差し掛かった朝日に目を向ける。


「様々な町を巡ったわ。それこそ、ソール君達と出会ったあの町にもね。そして私は、この町シズミでルーンの取引が頻繁に行われている事と、教会魔導士イオナが怪しいという事実を突き止めたわ。でも、私には生憎、戦闘手段というものが無い。それで困っていた時に、貴方達が現れたという訳」


「成る程、そうして立ち往生していたアンタは、この人がやられたタイミングで現れた、という訳か」


「話が早くて助かるわ。それじゃ、この人を連れて行くわね。……ほら、貴方達も手伝って」


 と、ソフィアの後ろから、イオナに同行してシズミに訪れた魔導士数人が現れた。


「まさか、あのイオナさんが犯人だったなんて……」


「凄まじい戦いだったな」


「俺にも、攻撃手段があったならもっと早く解決できたはずなのに」


「ほら、言いたい事はあっても、それはカシオズに着いてからよ」


 パンパン、とソフィアが手を叩くと、魔導士達はそそくさとイオナを運んで行った。


「さて、私も行くとしましょうか」


「あの、ソフィアさん!」


 と、ソールがソフィアを呼び止めた。


「一つ、頼みたい事があるんです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る