第129話 相対する敵の正体は

 コツコツと、朝の町中に靴音が響く。


「……」


 黒ローブの男が一人、霧に包まれたシズミの町を闊歩していた。


「見つけたぞ」


 と、そこに現れたヴァーノとウォル、そしてソールが道を塞いだ。


「ここからカシオズの街まで行く最短ルートは、この街道を行った先にある鉄道……それに乗るしかない。だからここで張っていればアンタが通ると思ったのさ」


 ヴァーノが煙草を口に咥えながら言った。


「それに、貴方は注意深くて警戒心の高い人。だからこの時間に出てくるという事は、容易に想像できたわ」


 ウォルが、何時にも増して険しい表情で言う。


「もういいだろ。……顔を隠す必要なんて無い。アンタの正体は分かってんだ、イオナさん」


 そう言われて、男はフードを脱いだ。そこに現れた顔は、魔導士イオナその人だった。


「いつ俺が関わっているって分かった?」


「最初に怪しいと思ったのは、この一連のルーン騒動の調査に関わっている人数を聞かされた時だ。流石に騒動に対しての人員が不足し過ぎている。だからこそ、誰かの意図によってこんな配員になったんだと推測した」


ヴァーノは煙草を口から離し、


「そして、ミーナという少女の告発。それでアンタがルーン取引の黒幕だって決定づけられた。あの子には感謝しないとな」


「ククク、そうか。やはりあの子は言ったか」


 イオナは不敵な笑みを浮かべた。


「それで、主犯格が俺だと分かった今、お前達はどうする?」


「……アンタを止める」


 ヴァーノがそう言った直後、彼とウォルがルーンの刻まれた手を構えた。


 途端、ヴァーノの手からは炎が、ウォルの手からは大量の水が顕現し、イオナに向かって放出された。それらは混ざり合うことなく、轟という音を轟かせながらイオナを仕留めんとする。


「フン、甘い!」


 イオナはそれらを横跳びによって躱す。


「逃がさない!」


 ウォルは再びイオナに向けて手を向ける。するとウォルの手の先に幾何学模様が浮かび上がり、そこから水が再び放出された。


「バーカ。それはこっちの台詞だっての」


「!?」


 イオナの言葉で我に返ると、ウォルの足元にはウォルのそれとは違った幾何学模様が浮かび上がっていた。


「しまっ……!」


 次の瞬間、ウォルの身体全体を走るように雷が轟いた。


「うぐっ、ぐああああああああああああああああ!?」


 ウォルの叫びにも似た悲鳴が響く。

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