第127話 雨の中で

 シズミの町に、雨が降った。


「凄い雨だな……しかもまた突然」


 ソールは町を一通り見て回って、宿泊している宿に走って戻っている途中だった。


 そんな時に、ふと路地裏の方が気になった。


「……?」


 雨音に混じって分かりにくかったが、微かに、誰かが泣いている声が聞こえたのだ。


「……行ってみるか」


 それは、少年の唯の気まぐれだったか、それとも神の啓示だったか。


 少年は、路地裏で泣き崩れている少女と出会った。


「キミ、大丈夫?」


「……っ」


 少女が振り返る。それは、ミーナと名乗った少女だった。


「ミーナ!?……一体どうしたの?」


 彼女はその青い瞳に涙を湛えていた。


「……別に、何でもないわ」


 彼女はそんな状況でさえも、持ち前の強気な姿勢を崩すまいとしていた。しかし、そんな態度を取るのも一杯一杯だという事が、その表情から窺い知れた。


「嘘だ。何かあったから、泣いてるんでしょ?」


「これは……雨よ。雨が頬を伝ってるだけじゃない」


 と、ミーナは頬を伝う水を手で拭ってみせた。


「それも嘘でしょ?泣いてるかいないかくらい、僕にも分かるよ。……どうして泣いているの?」


「うるさい。貴方には関係ないでしょ!」


「関係あるよ。僕達はもう、知り合っている」


 少年は少女との距離をカツカツと徐々に詰めていく。


「それに、泣いている女の子を放ってなんて置けないよ」


 そうして、少年は少女の肩に優しく手を置いて、


「僕で良かったら力になるよ。だから、言ってみて。君が抱えている事を」


 その言葉を聞いた少女は、


「……助けて」


 消え入りそうな、掠れた声で言った。


「お願い……助けて」


「もちろん」


 少年は、少女の眼を真っ直ぐに見つめて言ったのだった。

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