第124話 シズミの町の翳り

 シズミの町は、港町として栄えている。その家々は、大抵の場合レンガで造られている。港町特有の、潮風に耐えられるようにしているからである。このように、シズミの町の潮風は時に人に対して厳かである。しかし、薫る潮風は時として人々の心に浸透し、気分を和らげる。


「結局、子どもの方には逃げられたか」


 それはヴァーノとて、例外では無かった。


 彼は煙草に火を付け、自らの口に咥えた。


「……」


「ヴァーノ、少しは落ち着いた?」


「……あぁ、済まない」


 傍らにいるウォルが、彼に話し掛けて来た。


 彼らは、今しがた魔導士との戦闘を繰り広げ、消耗した体力を回復させんと風に吹かれていた。


「っ、放しやがれ!」


 その傍らには、拘束した魔導士が二人、縛られて横たわっていた。


「くそッ、絶対にしくじらないって話じゃなかったのかよっ」


「うるせぇ、そんなこと言ったってしょうがねぇだろ」


「お喋りはそこまででいいかな?」


 魔導士二人の口喧嘩に、ヴァーノが割って入った。


「さぁて、聞かせてもらおうか。……オマエ達の後ろにいる黒幕について」






 結論から言えば、収穫は無かった。確保した魔導士二人は末端の魔導士で、要するに使い捨ての駒に過ぎなかった。得られた情報と言えば、ルーン密売の黒幕は常に子供を相手に取引をしている、と言う事実のみとなった。


「しかし分からない。どうしてわざわざ子どもを相手に取引をする……?普通、大人相手の方が安全な取引が出来るはずだろうに」


「……もしかしたら、目的が違うのかも」


 ウォルが気付いたように言った。


「目的……?」


「えぇ。お金目的じゃないのかも」


「利益目的じゃなければ何だって言うんだよ」


「それは……分からないけど」


 ウォルがシュンと小さくなった。


「気にすんな。オマエが悪い訳じゃない」


 それをヴァーノが頭をポンと軽くたたく。


(いずれにせよ、この一連の動きには、オレ達の知らない何かがまだあるって事だな)

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