第122話 早朝の会話

 翌朝、ソールはシズミの町を散歩に出掛けていた。


「偶には夜じゃない散歩も、いいもんだな」


 カツカツと、靴とレンガ道の音が目覚めたての町に響き渡る。


「~♪」


 と、鼻歌交じりに歩いている時だった。


「……?」


 遠くない所から、何やら話し声が聞こえてくるのが少年には分かった。それはどちらかと言えば、言い合いに近いものだとも。


「何だ……?」


 気になってソールは駆け足で声のする方へと向かう。すると、昨日知り合ったミーナと名乗った少女と黒ドレスの女性の姿が目に止まった。


「あれは、確か……」


 ソールは自分の記憶を呼び起こす。彼の記憶が正しければ、それはイーユの町で出会った、妖艶な雰囲気の女、ソフィアだった。


 ソフィアとミーナが、何やら真面目な形相で話をしていた。


「それじゃ、手を引く気は無いという訳かしら?」


「えぇ。私は自分の為だけじゃない、この町に居る貧困の子ども皆の為にも、止める訳にはいかないから」


「……そう。貴方の気持ちは分かったわ。でも、私だけじゃない。必ず、止める人は現れる。それは覚えておいてね」


 ソフィアは話し終えると、ゆっくりと何処かへと歩いて行ってしまった。


「……」


 残されたミーナはそれをじっと見つめていた。


「やぁ、ミーナ」


 そこに、素知らぬ顔でソールが声を掛けた。


「あら貴方……確かソールと言ったかしら?こんな時間に何をしてるのかしら?」


「散歩だよ。久々に朝に身体を動かすのもいいかな、って思ってね」


「そう……」


「そういうキミは何してたの?」


「別に……。立ち話をしていただけよ」


 ミーナは話をしていたのを隠そうとはしなかった。


「さっき話してた人……知り合いなの?」


「やっぱり見てたんじゃない。……いいえ、あの人とはさっきここで出会っただけよ」


(やっぱり……ということは、ソフィアさん、イーユの人でも、ましてやシズミの人でも無いという訳か。だとすると、一体……)


「話はもういい?私も暇じゃないの」


「あぁ、ごめんね。それじゃ」


 言うと、ミーナはシズミの町中へと歩いて行ってしまった。


「……」


(ミーナのあの反応、ソフィアさんと初対面と言うのは本当の事なのかも知れない。……だとしたら、どうしてソフィアさんはミーナに接触を……?)


 と、考えている時だった。


 いつの間にか、ソールの周りにローブを被った男達が二人、彼を囲むようにして立っていた。


「……!?」

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