第119話 少女が手にしたものは

「それで、どうしてこんな所に?」


 ソールが尋ねた。


「別に。ただ、待ち合わせをしてただけよ」


「こんな所で?」


 ルナが疑問を口にした。そこは路地裏で、人との待ち合わせをするには打ってつけ、という訳では無かったからだ。寧ろ、待ち合わせには不向きと言っていい場所だった。


「何よ、悪い?」


「いや、悪くはないんだけど……」


 ミーナの威勢に、ソールは気圧されてしまっていた。


「……そうだ、一応助けてくれたんだし」


 と、ミーナは手に持っていた小袋から一枚の木札を取り出して、


「はいこれ、あげるわ」


 ソールに差し出したのだった。それをソールは断る理由がなかったため、受け取った。


「ありがとう。……これは?」


「『ルーン』っていうらしいわ。細かい事は分からないけど、それを使うと凄い力が身を守ってくれるのよ」


「ルーン、だって!?」


ソールは思わず驚きの声を上げた。渡された木札を確認すると、そこには正しく『ルーン』特有の紋様が描かれていた。


「これを、何処で!?」


「ある人から貰ったの。でももうダメよ。後は売り物なんだから」


「……悪いことは言わない。それを捨てるんだ」


「え?」


ミーナは疑問の声を発した。


「何よ突然」


「気を悪くしたのなら謝るよ、ごめん。でも、キミの為でもあるんだよ」


ソールは拳を握り締め、続ける。


「キミが思っている以上に、『ルーン』はとても危険な代物なんだ。それに、素人が簡単に扱えるような物じゃない。何も知らない内に使っていると、危険な目に遭う可能性だってあるんだ」


「……」


 ソールの熱弁に対し、ミーナは沈黙した。しかしやがて、


「貴方の言いたい事は分かったわ。心配してくれてるのも分かる。ありがとう」


「それじゃ」


「でも、ダメなのよ。私には、私達にはこの力が無いと……自分の身を守るのにも精一杯なんだから」


 そう言って、少女はソール達の前から走り去って行った。


「……」


 それを、ソール達はただ黙って見ているしかなかった。


「きっと、あの子にも余程の事情があるんだよ、ソール」


 肩を落としてるソールに、ルナはそっと優しく語り掛ける。


「……分かってる。分かってはいる、けれど……」


「ほら、気を取り直して、市場にでも行こうよ。ほら、コハルちゃんだって……!?」


「どうしたの、ルナ」


 ルナの様子に、ソールは反応した。


「大変だよソール、コハルちゃんが居ない!」

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