第118話 路地裏の邂逅
ヴァーノとウォルがマーケットに出掛けていた頃、ソール達は宿屋で休息を取っていた。しかし、暫くするとそれも飽きて来たのか、
「お外、行ってみたい」
と、コハルが言い始めた。
「外かー……どうする、ソール?」
続いてルナがソールに投げかける。
「知らない町だけど、三人でなら大丈夫、かな」
一抹の不安はあったものの、恐らくは大丈夫だろうと鑑み、ソール達は宿屋を出てシズミの町を散策することにした。
「さて、町に出たは良いけども、どうしたものか」
ソール達は宿屋を出たが、何をするのかについては決めかねていた。
「取り敢えず、市場の方を目指して歩いてみよっか」
「いいじゃない。そうしましょうか」
ソールの提案により、三人は市場を目指して歩き出した。
その数分後の出来事だった。
「何だと!?もういっぺん言ってみろ!」
遠くない所から、何やら争う声がソールの耳を叩く。声のする方向へ近づいてみると、路地裏で男が二人、一人の少女を問い詰めているのが見えたのだった。
「だからさっきから言っているように、私はただぶつかっただけって言ってるじゃない。ちゃんと失礼、とも言ったはずよ」
大の大人から詰問されていても物怖じしないその少女は、長い黒髪に青い瞳をしており、白を基調としたシャツを着ていた。その格好と態度から、何処となく気品を感じさせるような印象をソールに与えていた。
「ソール、揉め事?」
ルナもソールにつられて陰から様子をうかがう。
「嘘つけ!どうせぶつかった拍子に俺達の財布を盗んだんだろう。その証拠に、さっきまで懐にあった財布が無ぇんだよ!どうしてくれるんだ、あぁ!?」
ものすごい剣幕で少女に対して捲し立てる男達。それを見て、ソールは何か出来ないものかと思考する。とはいえ、ソール達が出て行っても男達相手に何かが出来るとは到底思えないのは理解していた。
(一体、どうすれば……)
「そこをどいてくれないかしら?さもないと……」
そんな状況であっても、追い詰められているはずの少女は屹然とした態度を崩そうとはしなかった。
「てめぇ、あんま調子に乗ってると……!」
と、男の一人が拳を振りかぶって少女にぶつけようとした時だった。
「騎士団の皆さん、こっちです!早く来てください!!」
ソールの声が路地に響いた。
「おい、まずいぞ。騎士なんかに見つかったら面倒だ、行くぞ!」
「……チッ、覚えてろよ嬢ちゃん」
男たちはそうして逃げて行ってしまった。
「キミ、大丈夫?」
男達が行ったことを確認し、ソール達は少女の元へと駆け寄った。
「……別に、平気よこれくらい」
「そう、良かった」
少女の身に何もないと分かり、ソール達はそっと胸をなでおろした。
「それで、騎士団っていうのは……?」
「あぁ、あれは嘘。咄嗟だったけど、上手くいって良かったよ」
「……そう」
そう聞いて、妙に安心する少女。その様子をソールは訝しんだ。
「所でキミ、名前は?どうしてこんな所に居るの?」
「人に名前を訊く時はまず自分から名乗るのが礼儀って誰かから教わらなかったのかしら?」
「アンタねぇ!」
少女の変わらぬ態度に、ルナが若干の怒りを露にする。それをソールはそっと手で宥めながら、
「ごめんね。僕はソール、それでこっちはルナ」
「よろしく」
ムスッとしながらも、ルナは少女に挨拶をした。
「こちらこそよろしく。……私はミーナ」
「ミーナか。よろしく」
ソールが手を差し出すと、ミーナと名乗った少女はそれを取って握手を交わした。
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