第116話 旅路に戻り何を思う

 ソール達は宿屋を出て、カシオズ方面の道を歩いていた。


「ほらソール、行くよ」


 一行の最前線でルナが元気に先導している。


「……」


 ソールは歩みを止めて、礼拝堂をただ見つめていた。


(僕に出来る事……あれで、本当に良かったのかな?)






『力を、どうか貸しておくれ』


『……僕はどうすればいいですか?』


『この町に広げた、人心のルーンをかき消して、町の連中を呪縛から解放してほしい』


『……分かりました、やってみます』


 ソールは懐中時計を持った腕を天高く掲げた。すると、懐中時計から眩い光が放たれ、その光は町中へと広がったのだった。


『これで、どうかな?』


 ソールが言うと、セーレは途端に仮面を取り出してみせた。内側に施されたルーンの紋章が、ドンドン薄れていくのが分かった。


『……ありがとう、少年よ』






「僕にもっと何か出来なかったかと思うのは、傲慢なのかな」


「そんな事は無いだろう」


 呟くその隣で、ヴァーノが口を挟んだ。


「人とはそういうものだ。何か出来たら、また一つ何かが出来ないかと模索する。人それぞれその度合いは異なるだろうが、オマエが抱いているそれは、少なくとも恥じる事ではあるまい」


「……ありがとう、ございます」


「礼を言われることをした覚えは無い。それよりも、今日中には次の町へ着きたいものだ。だから早く行くぞ。立ち止まっている猶予などないからな」


「……はい」


 ヴァーノに急かされ、歩を進めるソール。その胸には、ラバンカの町に対する若干の後ろめたさと、老魔導士ダヌアから授かった言葉が、重くのしかかるのであった。






『その時計は唯の魔時計ではない。単なる魔導具が、そこまでの力を宿すものでもない。それは、恐らく魔導士なら誰もが喉から手が出る程欲する代物だろうて』

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