第115話 老人が語るのは
「もう良い……もう良いんだセーレ」
男は膝から崩れ落ちた。それを見かねたセーレは、男に近づいて抱き寄せた。
「……分かった、話そう」
観念したのか、男は語り始めた。
「私の名はダヌア。見ての通りの老体でな、先程も言った通り、魔導士の第一線は退いている」
「だが、それでも魔導は扱えることに変わりはない、という訳か」
ヴァーノが口を挟んだ。
「まぁな。それで今回の騒動を起こしたという事だ」
「一つ、良いですか?」
ソールが挙手をした。
「どうして、僕の時計を狙っていたんですか?」
「……君の時計の事は、数年前旅の呪い師から聞いておった。超常の力を宿した時計があるらしい、とな。その時計を君が持っているかもしれないと娘、セーレから聞いて君らを襲ったという訳だよ」
「肝心なところを話してないようだが?どうして、という部分を」
ヴァーノが話すように老人に促す。
「……私には、必要だったからだよ。この町の魔導を解く為にね」
「この町の、魔導?」
ソールが尋ねた。
「あぁ。私がこの町に初めてやって来た時の事だ。当時私は町の皆から賢者ともてはやされていた。その時に私がこの町全体に施したのは、『人心のルーン』だった。私は人々の表情だけでなく、心をも制御できれば争いなど起こらないなどと、本気で信じていたのさ」
「……」
ダヌアの隣で、セーレは俯きながら静かに聞いていた。
「本当に愚かだったよ、私は。人心を掌握した所で待ち構えているのは破滅だというのに、それに気付くのに何年も掛かってしまった」
「アンタが悔恨の念に苛まれて改心したのは分かった。でも、だとしたらどうして昨日コイツらを襲ったんだ?」
ヴァーノはソール達を指差しながら疑問を放つ。
「……それも考えれば愚かだったな。どうしても早く、君が持っているその時計、それが必要だと考えた途端、私の思考は攻撃的なものへと変わっていった」
「アンタ、ひょっとして大規模魔導の後遺症が……」
「さてな。お話はここまでだ」
ダヌアは立ち上がるとソールの傍までやってきて、再び膝を付いた。
「頼む。君の力を貸しておくれ」
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