第111話 再び市場に

 一息吐いたところで、ウォルはラバンカの中央広場に出向こうとしていた。先程のルナ達を巻き込んだ『人心のルーン』を起動した、魔導の痕跡が何かしら残されているのではないかと考えたからだった。


「僕も行きますっ」


 ソールはベッドから降りて立ち上がる。


「ダメよ。まだ起きたばっかりでしょう?それにまた何か起きないとも限らないわよ」


「でも、そこに何かあるのなら、僕はそれを確かめたいんだ」


(自分でも分からないけれども、そうした方がいい気がするんだ……)


 少年は自分の胸に湧き上がる感情のままに、突き動かされていた。


「……分かった。連れてく」


 少年の心意気にウォルは折れた。


「あ、ありがとうございます!」


「じゃあ私達も」


「それは看過できない」


 しかし、少女の同行はまた別の話らしい。


「どうして!?」


「また魔導士の攻撃があるか分かったもんじゃない。それに、コハルちゃんはともかく、貴方には身を守る術がないじゃない」


「……っ」


 どうしようもないほどの正論に、ルナは黙り込んでしまう。


「だからこそ、貴方達はここで待機してなさい。もう魔導で操られる心配は無いから、安心して休んで」


 それはウォルとソールだけでなく、少女の為でもあるという、優しい言葉だった。それを理解してか、ルナはコクリと頷いた。


「よし、そうと決まれば、早速行くわよ、ソール君」


「はい」


「……ソール」


 何か言いたげに、ルナはソールの服を摘まんだ。


「大丈夫、戻ってくるから安心して」


 それに対し、ソールは微笑んで返したのだった。






「何か騒ぎになっている様子は無さそうね」


 中央広場のマーケットまで戻って来た二人だったが、既に敵の術は解け、仮面を着けた市民はまるで何も無かったかのように普通に買い物を楽しんでいるようだった。


「それどころか、あんな事なんて無かったみたいですね」


 ソールは思ったことをそのまま口に出していた。


「でも確かに、あの時は魔導が発動していた。人の心は操られていた」


 ウォルは冷静に状況を整理する。


「人の記憶からは、襲った記憶はおろか、操られていたという記憶も無い。『人心のルーン』の特徴ね」


「それじゃ、聞き込もうにも何も聞けないじゃないですかっ」


「……いえ、そうでも無さそうね」


 と、ウォルは市場の一箇所を指差して言った。そこには、周りをキョロキョロと見回す少女が一人、立っていた。


「あれは……セーレ?」


「知ってるの?」


 ウォルが怪訝そうに尋ねる。


「はい。昨日知り合ったんです」


「……そう」


(何だ……?何か含みがある反応な気がするけれど……)


 ソールはウォルの反応を気にしながらも、


「おーい、セーレ!」


 と、少女の名を呼んだ。

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