第105話 仮面の疑念

「……」


 少年ソールの質問に、少女セーレは少しの間を置いてから、


「分かりましたデス。それでは、ここに伝わる御伽噺を教えます。






『かつてこの地では、絶えず抗争が続いていた。人々は自らの感情を露にし、それによって争いの種は生まれ続けていた。そんな中、およそ三十年前、それを見かねた一人の賢者が居た。その賢者は、争いの原因である感情をどうにかしなければ、悲劇は繰り返し続けると言ったそうだ。そうして賢者は、感情を示す表情を仮面で隠し、暮らすようにと伝える。以降、人々の間では争いがなくなり、町には平和が訪れたという』






と、こんなお話があるのデス」


「そうか……」


(だから町の人は、ああやって仮面を着けているのか。自分の表情を他人に見せない為に)


 ソールは、セーレの話をただ黙って聞いていた。


「それで、セーレ自身はその決まり事についてはどう思ってるの?」


「私……?私は……」


 セーレはソールの問い掛けに俯いた。どうやらセーレ自身は、その伝統に疑問を抱いているらしい。しかし、彼女の口からは直接的にはそのような気持ちは聞くことが出来なかった。






 その晩、ソール達は宿屋の一室に一堂に会していた。


「全く、何処に行っていたのやら。……まぁいい、旅の準備はしておいて損はない。各自、自分に必要なものは見繕っておくんだな」


 ヴァーノは、珍しくソールの単独行動を咎めなかった。そして、少なくとも三日はこの町に滞在する事を提案したのだった。


「それには賛成ですが、ちょっと気になる事があるんです」


 と、ソールは昼間セーレに聞いたラバンカの伝統を皆に話した。


「なるほど、仮面の伝統か」


「はい。でも何か、あるように感じるんです」


 ソールは内なる違和感を吐露した。


「……分かった。その件についても、概ね調査はしておこう」


 意外にも、ヴァーノはソールの気持ちを否定しなかった。


「あれ、どうしたんですか、ヴァーノさん?」


 これには流石にソールも疑問を感じずにはいられなかった。果たして、名も無き村であれだけ行動に慎重になっていた男が、一転して町の事に干渉しようと言い出すだろうか?


「いや、この件については、少し気になることがあってな」


「気になること?」


「あぁ。実はこの町に着いた時から、あの仮面の輩が発する不気味さと言うか、不穏な空気を感じ取っていてな。そこで、オマエ達とウォルが買い出しや探索に行っている時に、このラバンカの町に怪しげな魔導の痕跡を見つけていたのさ」


「そう言えば、何かよく分からないことやってたわね。風の音を聞くとか、景色が良く見える高台を探すとか何とか」


 どうやらルナは、ヴァーノの行動に何かを感じ取ってはいたらしい。


「まぁ、そう言う事だ。……どうやらこの町は、ただの仮面を着ける伝統を守っている穏やかな町、という訳でも無さそうだ。本来ならば旅を優先させるべきなのだろうが、これも成り行きだ。探ろうじゃないか」

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