第6章:仮面の町ラバンカ

第104話 仮面の町

 ラバンカの町は、霧に包まれた秘境だった。町の周りは山に囲まれ、空気の透き通った田舎町、それがソール達がラバンカに対して感じた印象だった。しかし、その中で一行が一際気になったことが一つ、この町の特徴にはあった。


「皆、仮面をしていますね」


 仮面の町、ラバンカ―――そこで住む人々は素顔を隠し、仮面を着けて生活している。それは町の来訪者も例外ではなく、もれなく仮面を着けることを勧められる、というのが、この町の風習となっていた。


「いらっしゃい、ようこそ旅のお方。この町では仮面を着けるのが風習となっていましてな。皆さんもぜひどうぞ」


 町に入って早々、仮面を着けた老人に仮面を勧められた。しかし何があるか分からないという警戒心の方が勝り、誘いを断った。


「さて、まずは物資の調達だな」


 ヴァーノはこれからの旅の為に、休息場所と物資調達をすることを方針として掲げた。


「わわっ、ちょっと待ってぇ!」


 すると町の東の方から、そんな声が聞こえた。ソールがハッとそちらを向くと、緑の艶やかな髪を後ろに縛った少女が、坂の上から落とした果物を追いかけているのが見えた。


「よっと、大丈夫?」


 ソールが果物を拾い上げ、少女の元へ届ける。その少女ももちろん、仮面を着けていた。


「あっ、ありがとうございますデス!」


 緑髪に仮面の少女が深々と頭を下げた。


「そんな大層な事はしてないよ。当然の事さ」


 ソールは微笑んで少女に頭を上げるように促す。


「はい、どうもどうもデス」


「ところで君、この町の子?」


「はい、そうデス!私、セーレって言うデス!」


「セーレか。僕はソール、ここには旅の途中で寄ったんだ。よろしくね」


 ソールはそっと右手を差し出した。


「ハイ、よろしくデス!」


 セーレと名乗った少女は、その手を自身の両手で包み込むようにして握った。


「そうだ、果物取ってくれたお礼に、この町の事色々と紹介するデス!」


「え、あぁ、ありがとう」


 ソールはセーレのその元気さに、少し気圧されていた。


(ルナもそうだけど、セーレはそれを凌ぐほどの元気があるのかもしれない)


「そうと決まれば、早速案内するデスよっ!」


 セーレはソールの手を握り、力強く引っ張ってエスコートする。


「わわっ、ちょっとぉ!?」


 ソールは引かれるまま、セーレの後に付いて行くのだった。






「それで、ここが町一番の宿屋デス!身体を休めるなら、ちゃんとしたところで休むのが一番デスよ」


 青果店から始まり、セーレの案内は宿屋で終わった。その間約一時間。その間ソールは走りっぱなしで、町に着いて休むどころかさらに疲れが溜まっていた。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。……そうか、案内ありがとう」


「もしかして、ご迷惑だったデスか?」


 セーレがうるうると青い目を潤ませながら見つめて来る。


「いや、そんなことは無いよ。むしろ楽しかったくらいだよ。ありがとう」


 そう言うとセーレは仮面越しでも分かるようにぱぁっと笑顔になり、飛び跳ねた。


「こちらこそ、ありがとうデス!」


「……ねぇ、もう一つだけ、訊いてもいいかな?」


「何デスか?」


「どうしてこの町の人は、皆仮面を着けて暮らしてるの?」

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