第100話 名もなき祠

 朝食を摂り終えたソール達は、約束していた田畑の前に集まっていた。しかしそこに、ヴァーノとウォルの姿は無かった。


「全く、あの二人も来ればいいじゃない。何でこうも部屋の中に籠りたくなるかねぇ?」


 ルナが腕組みをしながら不満を言った。


「まぁまぁ、あの二人にも何か考える所があるんじゃないかな?」


 それをソールが宥める。


「おーい、お待たせですぅ」


 と、遠くからクルトが走って来るのが見えた。


「いや、全然待ってないから大丈夫だよ」


 ソールがそう答えると、


「優しいねぇ。それじゃ、行こうか」


 クルトが歩き始めた時、コハルが尋ねた。


「何処に行くの?」


「ここいらは畑ばっかで詰まんないだろうから、この村とっておきの場所に連れてくよぉ」






「……ここが、とっておきの場所?」


「はい、そうですっ!」


 ソールが訊くと、クルトは何故か誇らしげに胸を張って言った。


「何を隠そう、ここはこの村随一の神聖な場所なんです」


 と、クルトに誘われるがままソール達は付いて行った。そして、歩いて行くと森の中に一つの洞窟があるのが見えた。


「これは……祠?」


「はい、そです」


 ソールの言葉に、クルトは元気よく返答した。


「ここは僕達、村の住人が皆こぞって崇拝する『神様』の神聖な場所でねぇ」


 クルトはそう言うと、祠の中に祀られている石に向かって一礼をし、両手を合わせて拝んだ。


「こうやってボクもたまーに礼拝に来るですよ」


 クルトに倣って、ソール、ルナ、コハルの順番にそれぞれが一通りの作法を終えた。


「それで、この石は?」


 ソールが尋ねた。


「あぁ、この石は村の守り神様が宿ってるって言われてるんだよぉ。昔、村中を大きな飢饉が襲って、皆が困っていた時に空から舞い降りて来た神様が恵みの雨を降らせた。それで村は困窮から救われたって伝承があってねぇ。その神様を祀る為に造られたのがこの祠って訳さ」


「なるほどねぇ」


 クルトの話に、ソールは腕組みをしながら興味深そうに耳を傾けていた。その時、ソールの頭にはかつて自分が訪れたイーユの町を思い浮かべていた。


「でも、その割には村の人達全然元気そうじゃないけど……」


 気になったのか、ルナがそう呟く。


「あぁ、そりゃあ最近の日照りのせいだよ。全然雨が降らなんだで、作物の収穫にも影響が出てるみたいでねぇ」


 それを聴いてなるほどとルナが首を縦に振った。


「……」


 そんな中、ふとソールはある事を考えていた。


「もし、雨が降ったら」


「んえ?」


「もしも、雨が降ったらさ、この村の人達にも笑顔が戻るかな、って思ってさ」


 ソールは自分の拳に力を込めて言った。


「もしそうなったらどれだけ有難いか分からんねぇ。だから僕も今日こうやってお祈りしてるんだけんど」


 クルトはそう言いながらも笑いを絶やさなかった。しかし、その横顔には何処か悲しみが現れているように、ソールは感じたのだった。

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