第98話 その村の気配

「えぇっと、君は?」


 ソールが少年に向けて訊く。


「あ、ボクはクルトて言います。よろしく」


 少年はそう名乗り、深々と一礼した。


「で、クルト君、何か用かな?」


 ソールがクルトに続けて尋ねる。


「あ、えと、その……」


 するとクルトは言い辛そうに目を泳がせた。よく見るとその痩せ細った手には、壺の様な物を抱えている。


「恐らく金だろう」


 と、ヴァーノは少年に目をやる。少年はその言葉に申し訳なさそうにコクリと頷いた。


「こういった貧しい村ではよくある事さ。村の中では中々稼ぎになりそうな仕事が少ない。だからこそ、旅人の宿泊施設だけは立派にして、その客から金銭を頂く。そういうものさ」


 そう言われて、クルトは俯いた。それを見たソールは、


「いいよ、はい、コレ」


 と、クルトが持っている壺の中へ貨幣を入れた。


「えっ、銀貨!?そんな、いいの!?」


 ソールの行動に一番驚いたのはクルトだった。


「いいんだよ。元々僕のお金は、ある人から託された大切な物なんだ。きっと『あの人』は、僕達の事を思ってこれを渡してくれた。だから、僕は人の為に使ってもいいんじゃないかって思うんだ」


 その言葉を聴いたルナは、じっと熱い視線をソールへと向けていた。


「ありがとぅ、恩に着るよぅ」


 少し涙ぐみながら、クルトは礼を言った。


「処で、皆さんはこの村は初めてで?」


 クルトは一同を見回して言った。


「あぁ、そうだな」


 それに答えたのは、意外にもヴァーノだった。


「そですか、良かったぁ。それならボクも役に立てそうだぁ」


 独特のまったりとした口調でクルトは言う。


「それならボクが、この村について色々教えられますねぇ」


 嬉しそうに笑顔を浮かべながら、クルトは意気揚々と手を挙げる。


「いや、俺達は」


 ヴァーノが面倒くさそうに断ろうとするが、


「でも今日はちと遅いですんで、明日また来てお教えしますんで。よろしくねえ」


 と、クルトは聞く耳を持たず宿から出て行くのだった。


「はぁ……全く、これだから施しは無暗にするもんじゃないんだ」


 ヴァーノは少年の姿が見えなくなると、うんざりした様子で言った。


「まぁまぁ、ただ案内してくれるんだから、良いじゃないですか」


 ソールはそんなヴァーノを何故か宥める役に回った。


「でも、この村のこと教えてくれるって言ってた。何だか、楽しみ」


 コハルはそんな二人とは対照的にワクワクと胸を躍らせていた。


「そっか。コハルちゃん、他の町とか村って初めてだから」


「うんっ!」


 元気に返事をするコハルに、ルナは頭を撫でた。


「……でも、ちょっと気になる、かな」


 そんな一行の中で、ウォルはその名も無き村に、何か不穏な影を感じていたのだった。

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