第97話 新たな出会い
「敗北の、地?」
老人が紡ぐ言葉に、ソール達は気にせずにはいられなかった。
「それってどういう……」
と、ソールが話の続きを訊こうとするが、
「ちょっとアンタ、そんな所で油打ってないで、とっとと畑手伝っておくれよ!」
声のした方をみると、老婦が目の前の老人を呼んでいるようだった。
「おぉ、すまん。今行くでな。……あぁすまんな旅の方、わしぁ行くでな」
そう言い残して、老人は畑の方へと歩いて行ってしまった。
「……」
ソールはその背中を、じっと見つめていたのだった。
「こんな所でも、ちゃんとした宿屋はあるもんだな。ジーフの街にあった宿屋にも劣らない」
その晩、ヴァーノは村に不釣り合いな宿屋の造りに感銘を受けていた。宿泊することとなった宿屋は木造の古びた外見にも関わらず、内装はしっかりと手入れがされており、客間も埃無いままに掃除が行き届いている程だった。ソール達は宿屋の客間に荷物を置き、広々とした居間のテーブルを囲み、話をすることにした。
「……」
「どうした、コハル?」
と、ヴァーノは少し元気の無さそうにしていたコハルに目をやる。
「あ、えっと……この村、私が居た町よりもかなり勝手が違うって思って」
「……キォーツの町、か」
ヴァーノが呟くと、コハルはコクリと頷いた。
「あの町に居た人は、私には意地悪だったけど、皆元気だった。でも、この村の人達は何だかそれが無いみたい」
「それ私も感じた」
と、ルナもコハルの言う事に同調する。
「何か、昼間のお爺さんが言ってた事と関係があるのかな?」
「さあな……。お前はどう思う?」
ヴァーノはウォルに意見を促した。
「……『敗北』って言葉、あのお爺さんが言ってた言葉が、気になる」
静かにウォルは言った。それに対し、一同は頷いた。
「そうですね、それは僕もずっと気になっていました。あの言葉にはきっと、ここに何があったのかが短いながらも物語っていたんじゃないかって」
ソールはウォルの言葉に全面的に同意した。
「だが、それはオレ達がすべき事なのかは甚だ疑問だがな」
そこに、ヴァーノが口を開く。
「オレ達の旅の目的は、飽くまでもカシオズの街に辿り着く事だ。急ぎの旅では無いとはいえ、リスクを負ってまでこんな所の事情に関わるべきでは無い」
「……」
その言葉に、ソールは口を噤んだ。
(確かに、ヴァーノさんの言い分は正しい。それに今は僕とルナだけじゃなく、コハルちゃんも一緒なんだ。そんな中、幾ら魔導士二人が同行してるからって、迂闊に行動していい理由にはならない……)
そんな事を考えている時だった。
「あの……旅の人、ですか?」
と、誰かがソール達に話し掛けた。一同がそちらを見ると、そこにはソールとルナくらいの年齢の少年が立っていた。
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