第94話 ソールとヴァーノ

 ソールは確信を持った目で言った。


「何を言うかと思えば」


「ヴァーノさん、貴方は嘘を吐いてる」


 少年は目の前の男の顔を真正面から見据えた上で、言う。


「あの時はウォルさんがしつこく言うから僕達に加担したって言っていたけど、それだけで僕達の旅に同行まですることなんて無いはずだ。僕は『教会』がどんな存在なのかさえまだ分からないけれど、少なくとも貴方達がずっと所属している場所のはず。下手したら裏切りとまで言われる可能性のある行為を、わざわざ行う必要なんて無い」


 ソールの眼は、いつしか鋭くヴァーノを捉えていた。


「貴方はウォルさんにかこつけて、自分の本心を隠している。……違いますか?」


 その言葉に、ヴァーノは暫く沈黙した後、


「……大した洞察力だな」


 と、いつの間にか火を付けていた煙草を口に咥え、言った。


「だが、それだけでオマエは、オレが正義の味方とでも思ってるのか?ルナの方はオレをまだ悪人扱いしてるってのに」


「それは違いますよ」


 ヴァーノの言葉に、ソールは即座に反応した。


「ルナはああ見えて結構繊細なんです。過去に色々とありましたから。だからこそ、ルナは心を許した相手じゃないと、あんな風に冗談交じりの会話はしないんです。少なからず、貴方への警戒心は解けていると思います」


「……そうか」


 ソールがそう言うと、ヴァーノは自身の頬を指で掻いた。


「僕は、ヴァーノさん……貴方は少なくとも、悪い人では無いと思ってます。だって、いくらウォルさんの頼みだからとはいえ、僕達を守る為に旅を共にするなんて思えないんです」


 そこまで言うと、ソールとヴァーノ、両者の間を沈黙が支配する。そして、


「クク、くはははははは」


 と、ヴァーノは声高らかに笑った。


「な、何が可笑しいんですか!?」


 何か変な事を言ったかと、自分の言った事を頭の中で思い返そうとするソールに対し、


「いや、すまん。オマエがどうにもお人好しだと思ってな」


 ヴァーノは落ち着いてから続けた。


「で、そんなに簡単にオレを、オレ達を信用していいのか、オマエは?」


 ヴァーノは笑いを含みながら言った。しかしその笑いには邪悪な部分が見られないとソールは感じ取っていた。


「……はい。僕は人を見る目には自信がありますから。それに、貴方には最初から、あの時、ジーフの町で出会った時から、明確な敵意みたいなものは感じられなかったから、信じるって決めたんです」


 ソールはヴァーノの瞳をじっと見つめながら答えた。


「……オマエがどう思ってるのかは分かった。その上で、オレも話すとしよう」


 先程とは打って変わって、至って真剣な顔でヴァーノは言う。


「さて話そうか、オレ達の目的について」

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